“夜の女性”の魔性の魅力に惹かれて不倫… 世間は狭いと痛感させられた意外な結末

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長男から「会ってほしい人がいる」と言われ…

 その数日後、長男が「会ってほしい人がいる」と彼に告げた。賛成するかどうかは別として、会うくらいはかまわないと彼は答えた。

「会うとおかあさんを刺激しそうだから、おとうさんだけ来てくれないかなと息子が言うんです。それで、落ち着いた和食の店の個室を予約しました。その日、ちょっと仕事が長引いて、僕は10分くらい遅れて行った。そして通された個室で会ったのは、サクラだったんです」

 サクラさんとは数日前にもホテルに行った仲だ。そのときサクラさんは「あなたとだと一瞬、意識がなくなるの」ととろけそうな顔を見せた。

「サクラもびっくりしていました。だけどそれ以上に僕が焦ってしまって……。なんとか平常心を保とうとしたけど、いきなりビール瓶を倒して、長男に大丈夫かと聞かれました」

 長男は必死にサクラさんの性格のよさを訴えた。そもそもどこで知り合ったのかと尋ねると、サクラさんは彼が通う大学の聴講生だという答えが返ってきた。

「『学歴コンプレックスがあるものですから』と、サクラは営業用の顔を見せました。長男は『今は水商売をしているけど、それだって立派な職業だと思うんだ』と力説していたけど、僕の耳にはそれ以上、入ってこなかった。ただ、サクラを見つめていました」

 結婚しても大学には通って卒業する、卒業までは子どもは作らないと長男は言っていたような気がすると晋さんは話すが、どうも記憶ははっきりしていないようだ。

 サクラさんの自宅に晋さんが行ったのは、関係が始まったあの一夜だけだった。当時9歳の娘が、同居するサクラさんの実母と旅行に出ていたからだと、そのときになってようやくわかった。晋さんは彼女の自宅に長居せず、後にしたのも深夜だったので、リビングすらよく見ていなかった。子どもと生活していることには気づかなかったのだ。それ以降はいつもホテルで会っていた。

一家崩壊

 それから晋さんは必死にいろいろ考えた。長男にはサクラとのことは諦めてもらいたい。それが晋さんの本音だった。常識的に考えて、そういう女性との結婚を認めるわけにはいかないと彼は言ったが、内心は「オレの女だ」という思いもあったと率直さをのぞかせる。

「でもあのころの僕は本当にわけがわからなくなっていたから、正常な判断はできませんでした。サクラを呼び出してホテルに行き、責め立てたこともあった。サクラは『彼があなたの息子だなんて知らなかった』の一点張り。だけど少なくとも僕と長男、ふたまたをかけていたのは確かなわけですよ。するとサクラは、『私があなたをどんなに愛していても、あなたは私とは結婚してくれないでしょ』と。『だから結婚できる息子に近づいたのか』と言うと、『知らなかったのよ』と泣き崩れる。そんな状態なのに、ふたりとも求め合ってしまう。息子とオレとどっちがいいんだ、と叫びながら、自分でもこれは地獄だと思っていました」

 その後、長男はサクラさんの自宅近所にアパートを借りた。アルバイトと学業を両立させると宣言して出て行った。

 ひたすら嘆く早希さんを慰めながら、「いつか帰ってくるよ」と言うことしかできなかった。だがある日、彼は長男のアパートの前で張り込んでいた。サクラさんが部屋に入ったのを見届けて、迷ったあげく、長男の部屋のチャイムを鳴らした。

「出てきた長男を押しのけて、僕はサクラに飛びかかってしまった。長男が『何をするんだよ』と彼女を守ろうとしたので、『この女はな……』と言いかけ、息子を傷つけるわけにはいかないと気づいたんです」

 あわてて部屋を飛び出すと、長男が追いかけてきた。どういうことだよと言われても、本当のことは言えないと言葉を飲み込むしかない。だが、「あの女は浮気者だ、やめておけ」とついに言ってしまったのだ。長男は察しがよすぎた。

「『おとうさんは彼女と関係があったの?』と言われました。答えませんでした、もちろん」

 だが長男はサクラさんを問い詰めたのだろう。そしてサクラさんは、自分の身を守るために「1度だけ、晋さんに関係を強要された」とウソをついた。いつしかその話は早希さんにも伝わり、離婚話へと展開していく。

「早希が自殺未遂をはかり、長男と次男が結託して僕は家を追い出されました。幸い、早希は命に別状はなかった。その後、長男はサクラと結婚しました。妻と次男は元の家で一緒に住んでいます。僕は会社近くにアパートを借りてひとりで暮らしています。家族とは完全に絶縁状態ですね」

 真実は違うと何度も叫びたかった。だが叫んだところで、サクラさんと関係をもっていたのは事実だ。妻を裏切っていたのも本当のことだ。そしてサクラさんの一言で、家族は完全に崩壊した。

「サクラが、本当に僕らの親子関係を知らなかったのか、知っていて近づいたのか、それだけがわからないんです。ただ、息子が彼女に惹かれたのはわかる気がします。親子で同じ女性に魅せられてしまうなんてね……」

 晋さんの表情は暗い。あの一件があってから10キロ痩せましたと彼はつぶやいた。彼は最後まで、サクラさんのことを悪くは言わなかった。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年6月23日掲載

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