“夜の女性”の魔性の魅力に惹かれて不倫… 世間は狭いと痛感させられた意外な結末
そして足を踏み入れてしまい…
ふたりは店の近くの小さなイタリアンレストランに行った。サクラさんが、その店の料理をどうしても晋さんに食べてほしいと言ったのだ。こんなときにも客のことを考えているサクラさんに、彼は改めて感心したという。
「確かにおいしかったんです、その店。自分の舌に自信があるわけではないけど、でも本当においしいと思った。もちろん、僕が払いました。かっこつけて領収書はもらいませんでした。サクラはそれをじっと見ていたようですね、あとから『あなたのプライベートな時間なのだと思った』と言われました」
そう、サクラさんはその後、猛烈に晋さんにプッシュしてきたのだ。次に行ったバーで彼女はかなり飲んで酔った。彼は送って行かざるを得なくなった。マンション前でタクシーから降ろそうとしたが、足下もおぼつかない。しかたがないのでタクシーを帰して部屋まで送った。
「部屋に入ったら彼女、その場でくずおれてしまって。抱いてベッドにそうっと運んだら、首に両手を巻きつけられました。え、そんなはずじゃ……と思っているうちにキスされて。薄明かりの中で、彼女の目が光っていた。どうして泣いているのかわからないけど、その涙がやけにきれいに見えて。彼女からはうっすら甘い香りが漂うんです。もう抗いようがありませんでした」
突き飛ばしてでも帰るべきだったのかもしれないが、それはできないだろうと想像はつく。彼は彼女の妖艶な世界に足を踏み入れてしまった。
お預けをくらった犬状態
その後、彼は接待でサクラさんの店を使うのをやめようとした。だが取引先から「あの店で」と言われてしまえば従わざるを得ない。サクラさんは何ごともなかったかのように接客してくれる。あの日のことは、彼女の中で何も残っていないのかと晋さんは焦燥感を覚えるようになった。
数週間たったところで、彼は彼女にメッセージを送った。
「また会いたい、と。それしか書きようがなかった。それが正直な気持ちだし、彼女になんとも思われていないはずがない、あんなに素敵な夜を過ごしたのにとも感じていたから」
ふたりきりでまた会った。いけないと思いながら彼女の魔性のような魅力にとりつかれて、ホテルへ行った。
「当然、家庭に割く時間が減っていく。早希には、『うまくいかない案件があって、しばらく帰りが遅くなるかもしれない。ひょっとしたら帰れないときがあるかも』と予防線を張っておきました。早希は『またカプセルホテル?』と笑いましたが、『臭いおじさんになったら困るから、下着や靴下は替えてね。会社に置いておくといいわ』と数枚もたせてくれたんです。あのときばかりは心が痛みました。だけどサクラの魔性から逃れることはできなかった」
のめり込みたかったが、サクラさんに巧みにコントロールされた。会うのは彼女が休みの日だけ。自宅に帰らず、一晩を共に過ごせるのはせいぜい月に2回くらい。思ったほど時間がとれないのだ。
「いつもお預けを食らっている犬みたいな状態。男心をうまく操る女だったし、操られているとわかっていてもそれが心地いい。ただ、食事やホテル代に大枚をはたくわけではなくても、小遣いが少ないので経済的には辛くなっていきました。早希にも内緒にしていた社内預金を少しずつ取り崩して」
2年前、サクラさんと深い仲になって1年半ほどがたったころ、妻が大慌てで、彼に報告したことがある。
「大学2年で20歳になったばかりの長男が結婚すると言っている、と。相手は10歳年上のシングルマザー。早希は『こればかりは許すわけにはいかない』と朝から怒っていましたね。早希が怒るのは珍しかったし、さすがに20歳の学生が30歳のシングルマザーと結婚するのは、いくらなんでも早計すぎると僕も思った。話せばわかるよと早希に言って出社したのを覚えています」
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