工藤会「トップ」に異例の死刑求刑 福岡県警のメンツを潰した4つの市民襲撃事件

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県警の盗聴

 メンツを潰された警察庁は、まず法改正を行う。2012年に改正暴力団対策法を成立させ、「特定危険指定暴力団」の指定を可能とし、全国の暴力団の中でただ1つ、工藤会だけを指定した。

 識者が「超法規的措置」と指摘するほど、工藤会側の“人権”を無視するものとなった。

 15年には、後に警視総監となる吉田尚正氏(60)が福岡県警本部長に任命された。灘高校から東大法学部に進んだキャリア組。オウム特別手配犯だった高橋克也受刑囚(62)の逮捕や、黒子のバスケ脅迫事件の捜査に携わった。

 この吉田本部長が、工藤会の「壊滅作戦」の陣頭指揮を執った。まさに“国策捜査”が始まったのだ。

 元警部の銃撃事件を捜査する際、福岡県警が盗聴を行っていたことも裁判で明らかになっている。しかも、この捜査は思わぬ“副産物”を生んだ。事件に詳しい記者が解説する。

「盗聴を通じ、福岡県警は看護師襲撃事件の端緒を掴みます。しかし断片的な情報が多く、事前に全体像を掴むことはできませんでした。事件後、福岡県警は裁判所が保管する盗聴記録を取り寄せました。すると元警部の銃撃事件の記録に、看護師襲撃事件の会話が含まれていたことが分かったのです」

北九州市民の“気骨”

 この時、福岡県警は息を呑んだ。野村被告が看護師の襲撃を命じた理由が、下腹部の増大手術を巡るトラブルだったことが判明したからだ。

「工藤会の壊滅を図る福岡県警は、配下の組長や組員を逮捕した際、取り調べで、看護師襲撃事件の盗聴記録を使ったそうです。彼らのトップが、“下腹部の増大手術を巡るトラブル”という身勝手な理由で襲撃指令を出していたと教えたわけです。県警の狙い通り、ショックを受けて工藤会への忠誠心を失った組員もいたと聞いています」

 前出の藤原氏は、4つの市民襲撃事件から、「工藤会の焦り」が読み解けるという。

「裁判で検察側は、工藤会が市民に対する暴力をエスカレートさせることで、市民が工藤会に逆らえない雰囲気を醸成したと指摘しました。半分は事実で、半分は違うと思います。工藤会が暴力で脅し続けても、北九州市民は言うことを聞かなかったのです。言うことを聞かないからこそ、暴力をエスカレートさせたのです。野村被告に死刑が求刑された背景に、北九州市民が暴力団に屈しなかった側面があることは指摘したいです」

註1:西日本新聞「工藤会トップ裁判 論告要旨」21年1月15日朝刊より

週刊新潮WEB取材班

2021年1月28日掲載

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