元気な100歳がコロナ禍を生き抜いた秘訣 “自粛しすぎない”生活とは

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 新型コロナウイルス感染症は、高齢者や基礎疾患がある人が重症化しやすいのは明らかだ――と盛んに喧伝されてきた。

 それはデータに裏づけられた事実ではあるが、それを言い出せば、どんな病気も高齢になるほどリスクは高まる。ところが、特にテレビのワイドショーは、新型コロナウイルスが唯一のリスクで、高齢者の命がかつてなく危険にさらされているかのごとく、毎日その怖さを煽った。いや、いまも煽り続けている。

 ちなみに、各局ともワイドショーを、平日の午前から昼下がりに放送しているのは、主婦と高齢者の在宅率が高い時間帯だから。しかも高齢になるほど視聴時間が増えるという。視聴者に高齢者が多いと知ったうえで、彼らを不安にして視聴率を稼いでいるとしたら、テレビの罪は重すぎる。

 都内在住の50代の会社員氏が嘆く。

「母は東北の感染者が少ない県で、父の入院後は一人で暮らしていましたが、テレビ好きが災いしたのか新型コロナを怖がり、滅多に外出しなくなった。様子を見に行きたくても、首都圏からは来るなと言われ、私と会ったが最後、母は感染の可能性を疑われて病院にもデイサービスにも行けなくなる、と脅され、放置するしかなかった。そうするうちに認知症が進み、とても一人で暮らせる状況ではなくなった。思い切って東京の病院に入れたのですが、そこでも“感染防止”のため、ほとんど外を歩かせてくれず、わずかひと月余りの間に、それまではスイスイ歩いていたのが、階段を一段上るのも厳しくなってしまいました」

 80代半ばに見えない、とほめられたのが、わずか半年で別人のように衰えてしまったという。

 残念ながら、この人は例外ではない。後に現場の医師も実例を挙げるが、新型コロナウイルスを怖がって、健康長寿に不可欠な事柄を軒並み自粛した結果、QOL(生活の質)が損なわれる人が後を絶たない。少し前まで、長寿のためには適度な運動や人との会話を欠かさないように言われていたのに、真逆の生活を強いられたのだ。長寿から遠ざかるのも当然だろう。

 では、すでに長寿である百寿者は、新型コロナ禍をどう過ごしているか。世情に振り回されないからこそ、長寿を実現できているのであろう彼らに、高齢者がこのウイルスと向き合う際のヒントがあるのではないか。昨年、本誌(「週刊新潮」)に登場した二人を、あらためて訪ねた。

 まずは、福井県福井市で石田時計店を営む石田要一さん。御年100歳、年末には101歳になる。

「コロナのおかげで、いろんなイベントが中止になってるんよ。たとえば今年は、ここ福井で全日本マスターズ陸上競技選手権が開かれる予定だった」

 と、悔しさをむき出しに話しはじめるのだった。

「去年まで僕は、95~99歳の部に出場していて、今年からは100~104歳の部に出る予定だった。そのクラスの記録を見ると、僕とくらべにならないくらい低いの。砲丸投げと60メートル走に出場予定で、特に60メートル走は、僕は10秒台で走れるもんでな。記録を破るのを楽しみにしていたのに残念だね。毎日がんばって練習して、砲丸持ち上げて、筋トレもしていたけど、最近はやってない。代わりに福井マスターズ陸上競技連盟記録会があったけど、出場しても正式な記録にならないから行かなかった」

 だれも真似できそうにない体力と運動能力はともかく、目標に向かう前向きで強い姿勢が、元気の源の一つであるのは間違いなかろう。失われて抱く悔しさも、積極性と表裏一体だ。

「人間が萎縮してくる」

 だから、コロナ禍の落とし穴にも敏感である。

「公民館でも麻雀をはじめ、いろんな行事が中止になった。すると外出しないから、体力が落ちるんじゃないかと心配だけどね。ただ、徐々に再開してきて、スティックリングというカーリングに似た競技をやっています。それも1時間までに制限されていたけど、やっと2時間に戻ったよ。グラウンドゴルフもやっていて、10月23日に久しぶりに大会があって、参加します」

 周囲からは「石田さん、コロナに気をつけて」と声をかけられるそうだが、

「僕は風邪をひいたこともない。風邪のばい菌も来んのだからコロナも来んと思ってる。それに僕は仕事をしてるから、コロナにかかっている暇もないよ。病気とは“病”と“気”。気をしっかり持っていれば、コロナも寄って来んと思うけどね。火事場の馬鹿力というのは、火事のときは気が張って、ふだん持てないものが持てるということ。それだけ気力は体に大きく影響する。それに僕は戦場にいたから、恐ろしいものがない。空襲で逃げて死ぬ人はいるし、逃げなくても死なない人もいる。人間の寿命は自分ではなんともできないから、死ぬのを恐れていたらなにもできんね」

 もちろん、気をつけるべきは気をつけるが、むしろ過剰防衛を懸念する。

「帰宅したら手洗いをする。車を運転して外出するときはマスクもしないけど、たまにスーパーに行くときマスクを忘れてしまう。入店して自分だけマスクをしてないと悪いことをしているようで、車に取りに戻ることはあるね(笑)。ただ、あまり“コロナ、コロナ”と怖がってると、だんだん人間が萎縮してくる。町内でも会合すると喧(やかま)しく言われるから、みんな話をしないようになっているんだ。お年寄りは一人暮らしの人が多いでしょ。そういう人がうちに寄ったら、“家で一人でじっとしていると体に悪いし、なるべく散歩したり隣近所の人と会話したりしな”と言っているんやけど。“でも行くとこがない”と言われると、“うちは商売してるんやから、いつでも遊びに来なさい”と言うんけ。うちにはしょっちゅう人が来ては、座ってここで話してるんだよ」

 カウンセラー顔負けなのだ。というのも、石田さんは過去にも感染症にまつわる経験をしていた。

「戦前は結核について、すごく喧しく、僕が時計修理を始めたころは、職人はずっと座って仕事をしているから結核になりやすい、と言われた。僕は一人前になったとき、結核になったらなんにもならんと思い、午前中は仕事をするけれども午後は外交営業する、という改革をしたんだ。これが大当たりで、売り上げも増えて親方はよろこんだよ」

 驚かされるのは、戦前から今日まで、日々手先を細やかに使い、時計の修理を重ねていることだ。

「僕に全国から時計修理の依頼がくるのは、街の時計屋がなくなったから。こういう時計を直してくれませんか、と電話がくる。最近も東京、千葉、静岡などそこら中からきます。朝は5時に起きてご飯を炊き、全身をマッサージする。ひざの屈伸や、アキレス腱も伸ばすね。頭から足まで30分くらいかけて。そのあと洗濯とかして、ご飯を作って食べる。仕事にかかる前に新聞も隅々まで読むね。店を7時に開けると、そこからずっと仕事で、昼飯は12時、夕飯を18時に食べ、19時半にお店を閉めて、20時には布団に入る。若い時分に軍隊生活が長かったから、規則的な生活には慣れてるんだ。規則正しく生活して決まったことしかやらないのが、長生きの秘訣だと思うんだよね。若いときは暴飲暴食して胃潰瘍にもなったけど、ある年齢からしなくなったね」

 毎日、日本酒の燗をコップ1杯弱飲むが、煙草は70歳ごろにやめている。たまたま時計のベルトの調整に、石田さんの店を訪ねた30代の男性に聞くと、

「僕は古い時計が好きなんですが、ほかでは直せない。石田さんは手先が器用なので直してくれるんです」

 手指はもちろん、目を開けては閉じる運動も、毎日欠かさないという。

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