無観客では何の価値もない…選手村村長「川淵三郎氏」が語る東京オリンピック

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テレビの意向で「正午にW杯の決勝戦」なんて馬鹿げている

川淵 いちばん初めに思ったのは1年のアメリカ・ワールドカップの時に、決勝戦が12時だったんだよね。決勝だけでなく、全体的に日中のいちばん暑いときにやった。見てると「これ、選手は大変だなあ」って。当時はアメリカ国内よりヨーロッパの放送権料の方が高かったから、ヨーロッパ向けの時間に設定したんだろうね。

 よくもまあこんなバカなことするなって思ったいちばん最初だね。選手ファーストなんてどこに行ったんだって。いちばん過酷な条件で試合をさせるなんて、馬鹿げているよね。

小林 テレビ局やスポンサーの意向を最優先にしたオリンピックのスタンスを変えることはできますか。

川淵 IOCはアメリカのテレビ局の放映権料をなんとか確保したい。でも、そこを変えるしかない。そこが唯一最大の問題だから。

小林 私は東京五輪招致にずっと反対していたのですが、理由のひとつは、「ロス五輪以来の商業主義はもう限界に来ている。東京でやるなら、テレビ局やスポンサーに依存しない新しいビジネスモデルを提案するべきだ。そうすれば次の何十年か、オリンピックが健全に発展していける。ところが、招致活動にはそのような発想はまったく感じられませんでした。それどころか、古い商業主義の極まった形でお金を集め、華美を極めようとしていた。

川淵 僕も、東京オリンピックは変化のきっかけになればいいと思うのよね。招致段階なら、開催候補地がそんなこと言ったって、他の候補地がIOCの意向に添っていたら落とされる。

 要は、最後はIOCの決断、判断だからね。でも、いまのように経費がかかりすぎて、招致したい国がどんどん減っていく。早く手を打つべきじゃないか。東京オリンピックがそのきっかけになればいい。

来夏の東京大会はオリンピックを劇的に改革する絶好のチャンス

小林 そう考えれば、いま東京は千載一遇のチャンスを得ているとも言えそうですね。もう開催地に決まっている。東京が返上しない限り、いまさらIOCは他国に場所を移せないでしょうから。コロナ禍の中で来年開催するためには簡素化や様々な大胆な改革が必須条件になります。全部IOCの言いなりではなくて、きちんと主張するチャンスがあるのではないでしょうか。

川淵 ある、ある! これまではすべてIOCに従わないといけなかったけど、いまはチャンスだね。すべてIOCの言いなりにならざるをえないところにオリンピックの大問題がある。いろんなまあ、IOC委員の待遇だとか、この前も資料を読んでいたら、やたら貴族扱いの感じになっているでしょう。宿泊するホテルにしても、もっとランクを落として普通にやるとか。いろんなやり方ができるんじゃないかな。

小林 東京五輪の簡素化のプランの中に、「選手村の入村式をやめる」というのもあります。

 川淵さんの大事なお仕事がなくなりますが。

川淵 入村式が村長のいちばん大事な仕事だからね(笑い)。別の方法も考えているらしい。できるだけ簡潔にやるのはいいよね。思い切って、ここまでやるのってくらいね。

小林 いまはまだコロナ感染防止対策も検討段階ですから、東京五輪に反対する声も根強くあります。川淵さんはどう思われますか。

川淵 僕がいちばん思うのは、何がなんでもオリンピックは開催した方がいい。バッハ会長も、森組織委員会会長も、菅総理も言っておられる。1万数千人来る予定だった選手が、仮に1万人かそれ以下であってもいい。各競技団体が「オリンピックとして競技がやれる、世界一を決める大会にふさわしい人選ができる」と確信のある競技に限ってでもいいからやるべきだ。

 もし中止したら、もうね、想像できないくらいの損失だね。いろんな意味で。

 代表に選ばれて、日本のためにがんばるんだという選手の喪失感。選手の周辺の多くの人、関係者、世界一のパフォーマンスを目の当たりにできると思っていた数多くの人たちの喪失感ね。日本全体の喪失感は想像を超えるくらい大きいと思う。

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