6千万人目に届く活動を作り上げる――湯浅 誠(全国こども食堂支援センター むすびえ理事長)【佐藤優の頂上対決】

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自己責任論とこども食堂

佐藤 こども食堂といっても、貧しい子どもが食べに行くだけのところではありませんよね。

湯浅 そうです。日本の子どもの貧困は7人に1人と非常に多く、もちろんそうした子どもたちもやってきて、無料か安価な食事をしていきます。でも子ども限定ではない。幅広い年代の人が気軽に顔を出せる共生型のコミュニティスペースとしても機能している。そうであれば、見てわかる貧困でなくても対処できるし、そういう人をさりげない形で見守ることもできます。

佐藤 私が湯浅さんの影響かなと思ったのは、兵庫県明石市長の泉房穂(ふさほ)さんとお話しした時ですね。彼は、こども食堂に貧者の場所というスティグマ(烙印)を押してはいけない、普通の家庭の親が子どもに、今日はちょっと食堂に行ってきなさいと言える場所にすると語っていたんですね。

湯浅 泉さんとは一緒に本も出させていただいていますが、それは私の影響というより、泉さんの体験に根ざしたものでしょう。

佐藤 こども食堂には湯浅さんの戦略が見え隠れして非常に興味深いところがあります。本来は子どもの貧困も大人の問題ですが、子どもの貧困を入り口にすることで自己責任論を回避できるとおっしゃっています。

湯浅 ずっと大人の貧困問題をやってきて思ったのは、自己責任論の強さです。これは根強く、簡単には乗り越えられない。でも子どもは生まれる家庭を選べません。その意味では自己責任論を乗り越えたところからスタートできます。

佐藤 もう一つ気がついたのは、そのネーミングです。「こども食堂」と平仮名で書く。これはどう書くかである程度、思想傾向がわかってしまう。

湯浅 さすがですね。そこにはほとんど触れたことがないのですが、その通りです。「子供」と漢字で書くのは、いまの与党である自民党と公明党です。「子ども」と「ども」をひらくのは旧民主党関係です。私はどっちにも依るべきではないと思ったので、平仮名にしました。

佐藤 こういうところが非常に重要だし、湯浅さんらしい。

湯浅 「こども食堂」は政治的な動きではありませんし、そう見られてもいけないので、あえて説明はしてきませんでした。

佐藤 いまこども食堂は4千カ所ほどあるんですね。

湯浅 はい。爆発的に広がっています。相対的貧困なんていう小難しい言葉を知らなくても、ご飯を作って食べさせるくらいならと、多くの方が関わってくれる。いま年間で160万人が利用し、そのうち子どもは90万人です。

佐藤 うまく回っているんですね。

湯浅 ただ地域格差はあって、先ほど秋田県の方とリモートで話していたのですが、相当意識が違います。こども食堂なんて食べられない子が行くところで、そんなものが出来たら地域の評判が落ちると考えている人がたくさんいる。

佐藤 資料を見ましたが、小学校の学区に対する設置の割合が、秋田は5・5%と非常に低い。

湯浅 それを充足率と呼んでいますが、秋田は47都道府県中47位です。

佐藤 逆に充足率が高いのは沖縄ですね。

湯浅 沖縄は60%を超え、三つの小学校区に二つある状態で、全国1位です。2位は滋賀県、3位は東京都で、4位が鳥取県です。だからこれは都市部の現象というわけではない。

佐藤 秋田県と鳥取県の違いはどこから出てくるのでしょうか。

湯浅 西日本は女性が強い。こども食堂はどうしても地域の女性たちが関心を持ってくれないと広がりません。その女性の発言権が強いんです。藤山浩(こう)さんという中山間地域政策の専門家がいますが、彼によれば、西日本の中山間地は田畑が狭いので、同時に加工業もやっていくしかない。加工はさまざまな作業を伴うので、ここに女性進出の余地が生まれます。すると女性ががんばらないと村の経営が成り立たない状況が生まれてくる。その中で発言権が強くなったという分析があります。

佐藤 なるほど、秋田県のような大規模水田地帯だと、分業体制が家庭の中だけに限定されてしまう。

湯浅 ええ、女性が出ていく場所がない。だから地域の自治会長などがそんなものはうちの地域には必要ないと言えば、もう黙るしかない。

佐藤 先日、フランスの人口学者、エマニュエル・トッドの『大分断』という本が出たのですが、家族類型で分けると民主主義には三つあると言います。フランス・イギリス・アメリカ型、ロシア型、そしてドイツ・日本型です。これは教育、識字率とも関係しますが、ドイツ・日本型は家父長制的な関係、つまりは権威主義的な体制が強く、階級闘争が生まれず、みんなが権威に従ってしまう。これは人類学的な与件だと言うのですが、すると日本では地元のボスとか顔役が重要で、彼らの合意を取り付ける必要がある。積極的に協力しなくてもいいから、少なくとも邪魔はしないでもらわないといけない。

湯浅 そこはまさに政府に関わって学んだことで、積極的に賛成してもらう以上に、積極的に反対をしないように持っていくことが大事です。そこも含めて「6千万人目」ということを言い始めたんです。

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