「金正恩が与正に権力の一部を委譲」報道の真相、実情は独裁体制崩壊で兄も妹も共倒れ

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独裁者を引退!?

 重村教授によると、少なからぬ北朝鮮ウォッチャーが“異変”を感じ取ったのは、遅くとも今年5月頃だったという。

「その頃から北のメディアが、『金正恩委員長が指導された』という表現を使わなくなったのです。例えば朝鮮中央放送は6月23日『金正恩同志が司会なされた』、8月6日に『(会議に)参加し、司会された』と報じました。いずれも他の政務局委員に使われるのと同じ表現ですので、普通であれば金正恩氏の権威を貶める大問題です。それが堂々と報道され、お咎めも全く聞こえてこないため、我々専門家の間から『あり得ない』という声が上がったのです」(同・重村教授)

 北朝鮮の迷走は根が深いようだ。朝鮮日報の日本語電子版は8月18日、「独裁国家・北朝鮮が突如『君主独裁に反対』」との記事を配信した。

 内容は北朝鮮が発行する雑誌「社会科学」1月号に、中国の清王朝で書かれた独裁制批判の文書を再評価する論文が掲載されたというものだ。

 世界有数の独裁国家である北朝鮮が、独裁を否定する論文の掲載を許すはずがない。朝鮮日報は《金正恩国務委員長を独裁者ではない「愛民の指導者」と認識させる意図があるとみられる》と推測したが、やはり金正恩の権力基盤が揺らいでいることを伝える記事と見たほうがよさそうだ。

草案の異常

 更に重村教授ら専門家を驚愕させたのが、党大会の開催を伝えた、朝鮮中央放送の8月20日付の報道だ。

 この記事では、まず《朝鮮労働党委員長であるわが党と国家、武力の最高領導者金正恩同志が全員会議を指導した》と「指導」の文言が使われている。

 指導を使ったり、使わなかったり、迷走しているようなのだが、それを踏まえて重要なポイントを引用しよう。

《敬愛する最高領導者同志が、栄えあるわが党の戦闘的行路にもう一つの特記すべき出来事として刻まれる党第8回大会の招集を決定する全員会議決定書草案を読み上げるや、全ての参加者は、暴風のような歓呼と熱烈な拍手によって、上程された議題について全面的に支持、賛同した》

 重村教授は「独裁者が草案を読むという表現は矛盾していると言わざるを得ません」と苦笑する。

「北朝鮮は、その国家システムの要として独裁者を求めます。国是として『唯一指導体制』を掲げ、独裁者が絶対的に統治し、国民は唯々諾々と従うことが大前提なのです。もし金正恩氏が党大会を開きたいなら、『招集せよ』と命じれば、それで終わりです。ところが朝鮮中央放送は、金正恩氏が《草案を読み上げ》たと伝えたのです。独裁者が草案で誰に提案するというのでしょうか。こうなると、形容矛盾と言っていいでしょう」

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