「金正恩が与正に権力の一部を委譲」報道の真相、実情は独裁体制崩壊で兄も妹も共倒れ

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朝鮮日報も「健康異常説」に言及

 韓国の情報機関、国家情報院(国情院)は20日、国会で「金正恩[キム・ジョンウン]・朝鮮労働党委員長(36)が、国政負担を軽減するため、妹の金与正[キム・ヨジョン]・党第1副部長(32)ら側近に一部権限を委譲した」と報告した。

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 韓国の保守系大手紙の朝鮮日報は、翌21日の紙面で詳報した。まず「金正恩委員長、中国の集団指導を真似?」という解説記事を掲載、次に「金与正に権限を一部委任…後継者に決まったわけではない」と与正の後継に慎重な見方を示し、動揺する韓国世論に釘を指した。

 その上で社説「『金与正氏が一部委任統治』、北に何が起きているのか」では、《金正恩氏はその姿を見せなくなり、「健康異常説」も広がっている》と、正恩が国家運営に支障を来すほど、健康を害している可能性にも触れた。

 文在寅[ムン・ジェイン(67)]政権は健康不安説を常に一蹴してきた。それでもなお、正恩の健康が不安視されていることを浮き彫りにしている。

 更に北朝鮮ウォッチャーの関心を集めたのは、20日付けの北朝鮮の党機関紙・労働新聞の記事だった。

 金正恩が経済政策の失敗を認め、父の金正日[キム・ジョンイル](1942〜2011)が1度も開催しなかった労働党大会を来年1月に再開催すると宣言したのだ。朝鮮日報の社説は《今、北朝鮮では何か問題が生じているのだろうか》と結んでいる。

金与正も消える

 北朝鮮情勢に詳しい東京通信大学の重村智計教授に取材すると、「国情院の報告は、もちろんデタラメではありませんが、慎重な取り扱いが必要です」と指摘する。

「国情院は8月20日に国会の非公開委員会で報告、その出席者である野党議員がメディアに内容を明かしました。韓国政府が直接、国民やメディアに発表したものではありません。文政権は左派で、北朝鮮との融和を重要な外交課題に掲げています。その交渉相手である金正恩氏の健康状態が疑われるとなると、南北融和どころではありません」

 国情院は「金正恩のストレスが原因」という可能性にまで触れながら、健康問題は言及を避けた。

「文政権が健康不安説を否定していることから、国情院の分析は曖昧なものに終わりました。まさに奥歯に物が挟まったような表現になってしまったのです」(同)

 重村教授は、「金正恩氏の健康状態に強い疑いが持たれているのは事実です。その一方で、金与正氏の姿も北のメディアから消えました」と指摘する。

「金正恩氏の行動なら、北のメディアは写真と共に報じています。しかし健康不安説が報じられて以来、喋っている動画までは配信されましたが、肝心の肉声は未だに報道されていません。おまけに最近の写真については『威厳が感じられない』という指摘もあります。そのため今もなお、影武者説が燻っています」

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