訪問看護師たちは尊敬できるプロばかりだった──在宅で妻を介護するということ(第6回)

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訪問看護師はオバサンがいい

「在宅」を始めたばかりのころ、いちばん頼もしく思えたのは週2回の看護師さんの来訪だった。看護師は1人で、スーパーで買い物をするときのプラスチックカゴに、聴診器やら血圧計やらいろんなものを詰めてやって来る。1回の訪問時間は40分。やることは決まっている。

 ウチの場合、まず体温と血圧を測り、血中の酸素濃度をパルスオキシメーター(洗濯ばさみのようなものを指に挟む)で測る。異常がないことを確認した後で、経鼻経管栄養の管を鼻に固定したテープを貼り替え、あるいは管そのものを交換する。次に、陰部洗浄とおむつ交換を行い、同時に尿を受け止めるバルーンカテーテルの管を交換し、膀胱洗浄を行う。これがワンセットだ。

 特に、そばについていなければならない決まりはないのだが、私はいつもベッドサイドでそれをずっと見ていた。一つは好奇心から。自力で排泄や食事ができない女房の命を、どんな医療器具や介護機器が支えてくれているのかに興味があった。もう一つは、自身の介護力向上のためである。

 おむつ交換にしろ経管栄養にしろ、それまで入院していた茂原の病院で訓練を受け、またYouTubeの介護研修動画をチェックするなどして、頭の中ではしっかりできていた。しかし、家で正しくできているかどうかの自信はなかった。プロの技と照合して間違いはないかどうか確認し、あるいは彼女たちの裏ワザを盗み、ときに実演して見せて「ご主人お上手」などと言われ自信をつけたかったのである。

 訪問看護師さんには失礼ながら、当初、私は一抹の不安を抱えていた。私の住まいが千葉市でも外れに位置することもあり、「ちゃんとした看護師さんが来てくれるのだろうか」という不安があったのだ。介護保険の歴史はまだ浅く20年、訪問看護師が社会的に認知されておそらく10年くらいしか経っていないので、病院勤務の看護師さんに比べて大丈夫かなという気持ちも正直あった。

 しかし初日の対応で、それは杞憂であることが分かった。とても優秀で、仕事もてきぱきとこなし、何よりも医師のような責任感と緊張感をもって患者に接する態度は素晴らしいと思った。

 訪問の看護師さんに若い人はあまりいない。自分も家に帰れば姑の介護をしているかもしれない中高年が多いが、それもいい。家族のグチを聞かされることや、生活の苦労を訴えられることもあるだろう。そんなときは、医療・介護知識よりも人生経験がものをいう。そう、おばさんでいいのだ。あまり若い娘に来られても、悪しき妄想が膨らんで困る。

 そもそも、看護学校を出たばかりのナースに訪問看護は務まらない。ウチに来る何人かの看護師に聞いてみると、「病棟での看護業務はつまらない。もっと人の力になっている実感が欲しくて、病院勤めを辞めて訪問看護ステーションに入った」という人が何人もいた。

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