『妻に捧げた1778話』ベストセラーに見る「配偶者を亡くしたときの男女差」

社会2018年2月5日掲載

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2カ月で20万部

 作家・眉村卓さんの『妻に捧げた1778話』がベストセラーとなっている。余命1年を宣告された奥様のためだけに、眉村さんは毎日1話ずつ短編小説を書くことを約束する。その闘病記と実際の短編とで構成された本だ。初版は13年前とかなり前の本になるにもかかわらず、放送後2カ月余りで20万部も増刷したという。

 きっかけは昨年11月に放送された「アメトーーク!」の「本屋で読書芸人」で紹介されたこと。カズレーザーさんが「15年ぶりに泣いた」と語り、さらにその場で本を開いた光浦靖子さんも涙する――という場面が多くの視聴者の興味を惹き、放送直後から売れ行きが急伸したのである。

 ただし、珍しいのは放送から2カ月経ってなお売れ続けている点だろう。出版関係者によれば、「通常、テレビで紹介されて売れ行きが伸びても、ここまで長く持続することは滅多にないので、とても珍しいケース」なのだという。

 ではなぜこのように持続しているのか。この関係者によれば、

「もともと、奥様を亡くされた方の手記、いわゆる“亡妻”をテーマにしたものは広く読者を集める傾向があります」

 たしかに、過去にも夫人を亡くした喪失感などを扱った本には、ベストセラーや話題書が多い。

 たとえば『そうか、もう君はいないのか』は、作家・城山三郎さんの遺稿をもとにしたエッセイ。城山さんの没後、発見された原稿には、夫人との出会いから先立たれるまでが綴られていた。同書はベストセラーとなり、ドラマ化もされている。

 もちろん、夫を亡くした喪失感や闘病をテーマにした作品も存在するのだが、“亡妻”と比べると少ないというのが、業界での定評だという。

「確たる理由はわかりません。一つには、そもそも本来女性のほうが長生きだという前提があるので、先立たれたときのショックは男性のほうが大きいということもあるでしょう。

 また、女性は配偶者を亡くしてから元気になる方が多いけれども、男性は落ち込む方が多いとも言います。そのあたりも関係しているのかもしれません」(同)

夫は落ち込みやすい

 配偶者と死別したあとの精神状態に男女差がある、というのはよく言われる。これは単なる俗説ではなく、さまざまな研究で実証されている傾向だ。

 たとえば第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部が2017年4月に発表したレポートには、次のようにある(以下の引用元は「配偶者と死別したひとり暮らし高齢者の幸福感」 主席研究員・小谷みどり)。

「(配偶者と死別したひとり暮らし高齢者に)現在の幸福度について、『まったく幸せではない』0点、『とても幸せ』を10点とすると、何点くらいになるかを回答してもらったところ、最も多かった回答は男性で5点だったのに対し、女性では8点で、平均値は男性で7.09点、女性で7.82点と、女性の方が高かった」

 統計的な検定を行ってみても、性差が存在し、女性は男性よりも幸福度が高いと見られるのだという。さらに、

「生きがい(喜びや楽しみ)を感じるのはどのような時かを複数回答で全員にたずねたところ(略)、ほとんどの項目で女性の回答率が男性を上回った」

 という。

 つまり、女性のほうが配偶者の死という哀しみから立ち直り、新たな生きがいをみつけやすい傾向があるということのようだ。

 また、配偶者の死後、友人と過ごす時間を見ても、女性は58.4%が「増えた」と答えているのに対して、男性は31.4%にとどまったという。これでは精神的に落ち込むのも無理はないかもしれない。

 こうした傾向は日本だけではなく、アメリカでも同種の研究が発表されている。

 もちろん、これはあくまでも全体の傾向に過ぎず、実際には夫を亡くして悲嘆に暮れ続ける妻もいれば、妻を亡くしてすぐに独身生活を謳歌する夫もいるのだろう。

 ただ概して妻を亡くした悲しみの手記は切実感が強く、それゆえに共感を呼びやすいということは言えるのかもしれない。

デイリー新潮編集部