韓国人に「コロナ情報共有に日本はまだファックス使ってる?」と言われた話

国際 韓国・北朝鮮

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スピード感があるのはカルチャーショック

 この話を私が知ったのは、韓国人と会食をしているときだった。「この21世紀に、ファックスで確認だなんて、いったい何を日本はやっているんですか」と、バッサリ切り捨てられた。言われた私も、顔を引き攣らせるしかない。

 その後、気になって検索してみると、20日付のテレビ朝日による報道が出てきた。それによると、3日もかかってしまう理由は、病院から保健所、そして自治体と、同一感染者についてファックスでの報告が2回行われること、また、担当医も急いで記入したり、ファックス送信をくり返すことで字が読みにくくなり、内容を電話で確認するという。

 それを改善すべく、新規感染者をオンラインで報告するシステムが開発された。だが、現在採用した自治体は8割弱となったが、東京や大阪といった、感染が拡大している大都市圏の自治体では、移行に時間がかかるという。

 駐在員からよく聞く話だが、韓国は精密さでは日本に叶わないところがあるものの、とにかく、スピードがあるのが取り柄だという。実際に韓国社会で暮らしていると、そのスピードについて行けず、疲労感に襲われることも、正直なところ。外国に住めば、カルチャーショックというものはあるのだが、韓国のスピード感もその一つだ。だが、現代のような情報化社会では、それは活力にもなる。

 とはいえ、韓国における防疫のためのオンラインシステムは、新型コロナ流行を受けて一朝一夕で出来上がったのではない。遡ること5年前に韓国でMERSが流行し、その時の痛い教訓から朴槿恵政権が整備をはじめた。それがあったからこそ、いま現在、国と自治体でいち早く感染状況が把握でき、政府がぶれない対策を打ち出すことができる。MERS流行ではその体制がなく、政府と自治体が異なる見解を出したことで、国民の間で不信感が募った。これは今の日本とまったく同じである。

「個人情報の把握は嫌だけど」

 もちろん、韓国の防疫対策が百戦錬磨だとは言わない。韓国の場合は、感染者の個人情報がかなり詳しく情報機関に把握されるからだ。当の韓国人でさえ「個人情報の把握は嫌だけど」と言うほどで、他国ではなかなか難しいところであろう。

 コロナ禍では、感染者に限らず、人びとの日常の暮らしができなくなった。それは、人びとの健康にかかわる重大事項であるが、もう一つ、情報をどれだけ公開し、その情報とどのように付き合うかという問題を、日本に突き付けた。

 そのことを深く考慮して、日本は今回のことを教訓に、日本の社会環境に見合ったIT化を本格的に進めて行くべきではないだろうか。

平井敏晴
ノンフィクション作家。ソウルの大学で日本関連の講義をしながら、東アジアの文化や社会について文筆活動を行っている。専門は、美学、精神史。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年8月4日掲載

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