「京アニ事件」明日で1年 犯人の伯父が語る悲痛な覚悟

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 36人が死亡、33人が重軽傷を負った「京都アニメーション」の放火事件から、18日で1年が経つ。戦後最悪の犠牲者を出した殺人事件は、遺族だけでなく、「犯人の親族」となった人々の生活をも一変させてしまった。青葉真司容疑者(42)の伯父にあたる人物が語るのは、一生十字架を背負う、あまりに悲痛な覚悟だった。

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「あの日は、京都でひどい事件があったんだな、とニュースを見て思っていたんです。それが事件の2日後、突然、テレビ局の人が訪ねてきて“あなたは事件を起こした青葉真司の伯父です”と言われまして。その瞬間、頭が真っ白になって足に力が入らなくなってしまいました」

 そう語るのは、青葉容疑者の実母の兄、つまり伯父にあたる人物である。青葉容疑者の母親は、6人の子供を持つ男性と駆け落ちし、その後に青葉容疑者を含めて3人の兄妹を出産。その後離婚して、子供たちは父親に引き取られている。

 そうした複雑な家庭環境はもとより、青葉容疑者の存在自体、事件まで一切知らなかったと伯父は話す。

「妹が妻子ある男と駆け落ちしたと聞いたのは、私が30代の頃です。母に一緒に連れ戻しに行ってくれと頼まれましたが、“そんなことをする奴はもう家族ではない”と、それきり兄妹の縁を切っていたのです」

 青葉容疑者の祖母が25年ほど前に亡くなるまで、妹とは音信不通だったそうだ。

「妹に子供がいたことさえ知りませんでしたから、青葉の顔はニュースで初めて見ました。妹に似ているかなんて分からない。ただただ恐ろしい殺人犯に見えました。会ったこともない人間なので、彼のことは何も知らない。かといって、血の繋がっている人間ですから関係がないとはいえない。知ってしまった以上はなかったことにできませんが、こんな大きな荷物を抱えたままの老後になるとは、思ってもみませんでした」

「モヤがかかった感じ」

 事件直後、伯父夫妻は共に体調を崩し、外出もままならなくなってしまった。

「定年で会社勤めを終えて、夫婦で何処か旅行に行こうかなんて話をしていましたが、今はとてもそんな気分になりません。毎日、モヤがかかったような感じで生きた心地がしないのです。頭に浮かぶのは亡くなった方々のこと。何をしても、我々は心の底から楽しんではいけないんだと思ってしまう。仕事をせずに時間がある分、いつも事件のことを考えてしまいます」

 伯父の妻も、沈痛な面持ちでこう話を継ぐ。

「昔から、NHKの朝ドラを楽しみにしていたのですが、この前はアニメーターの物語だったでしょう。被害者の方々はこんなふうに働いていたと思うと、観ていられなくなって……。それでも、事件が報じられた新聞や雑誌の記事には、できるだけ目を通しています。辛いですが事件に向き合うべきだと思っています。今でも、テレビから“きょう”と聞こえるだけで、ハッとしてしまう。でも犠牲者の方、遺族の方はもっと苦しんでいると思うと……」

 本来は気乗りしないマスコミの取材を受けるのも、責任を取ることの一つの形だと、再び伯父が語る。

「亡くなった方には本当に申し訳がない。突然大事な人を失ったご遺族はどれだけ辛いのか、想像するだけで涙が出てきます。会ったことがないとはいえ、私は青葉と血の繋がった伯父です。一生償いの気持ちを持ったまま死んでいこうと決めています」

 面識のない親族にまで重荷を背負わせた青葉容疑者は、9月までの鑑定留置が認められ、起訴するかどうかの判断は秋以降になる見通し。一刻も早い真相解明が待たれるが、未だに事件への反省や遺族への謝罪は、彼の口から何も語られていないのだ。

週刊新潮 2020年7月23日号掲載

ワイド特集「物語には続きがある」より

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