「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年

社会2019年8月11日掲載

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 35人もの死者を出した京都アニメーション放火事件の青葉真司容疑者が、意識を取り戻したと伝えられている。治療にあたっている関係者の尽力には誰もが頭が下がるところだろうが、一方で容疑者の罪の深さを考えれば、救命にどれほどの意味があるのか、と疑念を持つ人もいるだろう。

 本人が回復しなければ動機の解明は進まない。しかし、回復したからといってその口から真相が語られるという保証も実はない。

 理解不能な凶悪事件が起きた時に、誰もが「なぜ」と思う。そして犯人がそれを説明し、反省の弁を述べることを願う。が、そうしたことは実現しないケースも多い。児童8名を殺害した池田小事件の犯人、宅間守は公判で不遜な態度を取り続けていた。19人を殺害した相模原障害者施設殺傷事件の犯人も被害者への謝罪の意を表明していない。

 残念ながら、こうしたことは大量殺人など理解不能な事件に限った話ではない。少年刑務所で数多くの非行少年に接してきた精神科医の宮口幸治氏の著書『ケーキの切れない非行少年たち』には、言葉を失ってしまうような実例が多く示されている(以下、引用は同書より)。

 宮口氏が出会ってきた非行少年には、「反省すらできない」者が多くいたという。

「幼女への強制猥褻をした少年に、『どうしてそんなことをやったのか?』と聞いても、たいてい『うーん』と唸るだけです。そして、考えた挙句に返ってくる答えは『触りたかったから』程度です。『被害者に対してどう思っているの?』と尋ねると『悪い』と即答します。でもこれは反省の言葉ではありません。

 私は罪を犯した少年に、最初から本当の反省の言葉は期待していません。最初は嘘で誤魔化そうとしてもいいのです。時間をかけて修正していけばいいのです。せめて『やばいことをしてしまった』といった後悔がみられるだけでいいのです。そこから少しずつ更生させることができるのです。

 しかし、実際の少年たちには、全くそんな気配もありません。少年院に来てみてどう感じているかと尋ねてみても、ニコニコして『まあまあ』『楽しい』と答え、そもそも自分が置かれている立場が理解できていないのです」

 こうした例を聞いて、憤りをおぼえるのは当然だろう。ただ、宮口氏は彼らが非行を行った原因のひとつは「後先を考える力の弱さ」だ指摘している。見通しをもって計画を立てる力が弱く、安易な非行を行う少年が多くみられるというのだ。

「彼らは院内でもよくトラブルを起こします。よくあるのが同じ部屋の子が自分を見てくる、見てニヤニヤしてくる、独り言がうるさい、といったものでした。

 頻繁になされる彼らの訴えは『イライラします。薬ください』でした。そのようなことで精神科薬を処方することはありませんが、最初は、みんなストレスが溜まってイライラするんだな、と感じていました。

 しかし、診察を続けていると、彼らは何に対しても『イライラする』という言葉を使っていることに気づきました。担任の教官が来てくれなくてイライラ、親の面会がなくてイライラ、はまだ分かるのですが、お腹が空いてもイライラ、暑くてもイライラ、被害者に悲しい思いをさせたことに気づいて自分にイライラ、悲しいことがあってもイライラ、なのです。実は、彼らは感情を表す言葉として『イライラ』しか知らないのでした」

 数多くの非行少年との面接を経験した宮口氏は、驚くべき現実に直面する。罪を犯した自分のことをどう思っているか、という問いに対して、約8割の少年が「自分はやさしい人間だ」と答えたというのだ。

「どんなにひどい犯罪を行った少年たち(連続強姦、一生治らない後遺症を負わせた暴行・傷害、放火、殺人など)でも同様でした。当初、私は耳を疑いましたが、どうやら本気で思っていたのです。

 ある殺人を犯した少年も、『自分はやさしい』と答えました。そこで『どんなところがやさしいのか?』と尋ねてみると『小さい子どもやお年寄りにやさしい』『友だちからやさしいって言われる』と答えたりするのです。“なるほど”と思いました。そこでさらに私は『君は○○して、人が亡くなったけど、それは殺人ですね。それでも君はやさしい人間なの?』と聞いてみますと、そこで初めて『あー、やさしくないです』と答えるのです。

 逆にいうと、“そこまで言わないと気付かない”のです」

 一般の常識ではとらえられない彼らにどう対処すればいいのか。「そんな奴らは全員抹殺せよ」といった感情を持つ人もいるだろうが、それは現実的ではないだろう。

 宮口氏は精神科医の立場から、彼らの心や認知能力に働きかけるトレーニング方法を開発、実践し、かなりの効果を出しているという。道徳を説くようなアプローチではなく、求められるのは科学的なアプローチなのかもしれない。

デイリー新潮編集部