外資による土地買収で国土が「不明化」する――平野秀樹(姫路大学特任教授)【佐藤優の頂上対決】

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日本に租界ができる?

佐藤 こうした問題は、ほとんどが中国がらみですね。どうも彼らには、戦前の大東亜共栄圏の発想と同じで、いまのルールは勝手に白人たちが作ったものだから、これからは自分たちでルールを作っていく、という意識がある気がします。

平野 中国がアヘン戦争で負けた後、あちこちに租界ができたり、香港やマカオは植民地になりましたね。その意趣返しが行われている気がしてならない。日本にいる中国人はほとんどが中国籍か二重国籍だと思いますが、どちらにしても中国の国防動員法の下にありますから、有事の際には、中国政府が彼らの資産を全部没収できてしまう。そうなると日本で買収された土地は、中国政府が所有権を持つことになります。

佐藤 そこまではいかないにしても、日本の中に異質な共同体を作り上げる可能性はありますね。中国人の意識は、国家よりその一族への帰属意識が強い。だから日本国籍となっても、アイデンティティとしてはずっと中国人なんですよ。そこが一番やっかいだと思います。

平野 日本の制度は暗黙知とか性善説の上に成り立っていて、コロナも自粛でそこそこ収まってしまいます。そこへ成り立ちも性格も異質な民族が入ってきてそのウエイトが高まったら、何が起きるかわからない。

佐藤 食料の安全保障も、土地の安全保障も重要ですが、思想的な安全保障も極めて大切です。そこで私が注意して見ておかないといけないと思うのは、1人当たりのGDPです。

平野 経済力ですね。

佐藤 日本は4万ドルを割り込んでいて、韓国は3万1千ドルくらい、中国は1万ドルほどですが、どんどん上がっています。彼らが日本より明らかに豊かだと思い始めたら、非常に危険です。土地買収も企業買収も、これまでは心理的なバリアがありました。韓国など、本来はもっと土地を買っていてもおかしくない。でも反日教育が逆に作用して、敵として日本を見ているから、必要以上に大きく見えている。だから歯止めがかかっているのだと思います。

平野 なるほど。経済力が落ちれば、土地や企業買収が進むだけでなく、歴史もどんどん都合のいいように上書きされ、作り替えられていくでしょうね。いま日本は所得の低い非正規労働者がどんどん増えて、結婚もしなくなり、世相・世論もシラけています。それが広がれば、日本は間違いなく貧しくなる。そもそもこのままいくと、2100年の人口は、5千万人になります。

佐藤 人口がその規模になると、バイリンガルが増えます。韓国のアイドルが、英語や日本語、中国語を使って外国で稼ぐのは、自国のマーケットが小さいからです。外国語ができる人は、その時点でもっとも経済的に魅力のある国に出ていきます。するとますます国力が落ちる。

平野 だから将来の日本が貧民国に陥らないようにするためにも、富の源泉となるものはきちんと保全していかなければなりませんね。その基本中の基本が国土で、領海を含む領域です。この5年で逆方向に進んだわけですが、国土保全の観点から、これまでの政策を練り直していく必要があると考えています。

平野秀樹(ひらのひでき) 姫路大学特任教授
1954年兵庫県生まれ。九州大卒。農学博士。農水省に入省し、国土庁企画官、環境省課長、農水省局長などを務める。退官後は、東京財団上席研究員、青森大学教授を経て現職。高校生による「聞き書き甲子園」を手掛けた。著書に『日本はすでに侵略されている』『日本、買います』、共著に『領土消失』『奪われる日本の森』など。

週刊新潮 2020年7月2日号掲載

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