外資による土地買収で国土が「不明化」する――平野秀樹(姫路大学特任教授)【佐藤優の頂上対決】

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プーチンの土地政策

佐藤 これまでに、どのくらいの土地が外国資本に買われたのですか。

平野 2019年発表の政府調査では、山林6787ヘクタール、農地14ヘクタールです。合わせると東京の山手線の内部ほどの広さですが、実態はその10倍以上あると私は見ています。

佐藤 買われた山林の管理はどうなりますか。地元の森林組合がやるのですか。

平野 ほとんど放置ですね。もともと森林の植物自体の管理は大したことがなくて、問題になるのは境界線の管理です。ただそれも森林組合がすべてできるわけではない。

佐藤 あまり見回りにいかないと、組織的に産業廃棄物を捨てるようなことが起きませんか。

平野 その恐れはありますね。

佐藤 暴力団対策法の改正によって、日本の暴力団は昔のように産廃で荒稼ぎできなくなりました。代わって、日本の広域暴力団に限りなく近いメンタリティを持った外国の会社が進出してくることもあるかもしれない。

平野 可能性としてはありますね。それに加え買収後の管理という点で問題なのは、ソーラー発電です。8年前、ソーラーは導入を促すために初め1キロワット時当たり40円という破格の買取価格を設定しました。いまは半値以下ですから参入しても儲かりませんが、初期には農地と山林が相当買い占められました。私の試算だと、全国でだいたい20万ヘクタールがソーラー用地となり、その3~4割、7万ヘクタールが外国資本だと見ています。

佐藤 山の売買よりはるかに大きな数字ですね。

平野 買取価格は20年間維持されますが、壊れたり、老朽化したり、20年後以降はどうなるのか。ソーラーパネルには鉛やセレンなどの有害物質が入っています。撤去するには数千万円以上かかりますから、現場に巨大産業廃棄物として放置されることになるでしょう。撤去まで盛り込んだ許認可になっていませんから、長期的な視点に立つと、大きな欠陥のある制度です。

佐藤 こうして日本が虫食い状態になっているお話をうかがうと、1990年代のロシアを思い出します。ロシアでは「混乱の90年代」と呼びますが、ソ連崩壊後、国有だった土地を民間に売り出し、90年代の前半は買いたい放題でした。住宅もほぼ国が持っていましたから、それも民間に払い下げとなった。

平野 すごい混乱だったでしょうね。

佐藤 1992~93年だったら、モスクワの80平方メートルの3LDKが1500~2千ドルで買えました。ただ当時のロシア人の月給は、学校の先生で4~5ドルです。だから外国人がどんどん買ってしまった。そして数年経つとそれが5倍くらいになるので、転売して売り抜ける人がたくさんいました。でもプーチンが大統領になって、強権を発動し、外国人が土地を持てなくしたんです。さらに外国人の持っていた土地も接収しました。当時、スポーツ観光委員会という、背後に暴力装置が控えている組織があったのですが、場合によってはそこを使って、土地を外国人から召し上げていましたね。

平野 日本においては、ロシア資本が土地を買ったという話は聞かないですね。

佐藤 ロシアンマフィアは各国で犯罪行為に手を染めていますから、国際的に監視体制が厳しい。また、日本で土地を買って大儲けしたりすれば、国家が乗り出してその上がりを持っていく法律を作りかねないということが背景にあるからかもしれません。

平野 ロシアまで入ってきたら、さらに混乱しますから、それはよかったと言うべきかも。

佐藤 ただ、いま日本の漁業会社を買いたがっていますね。日本の会社が弱っていると、合弁にしませんか、とアプローチしてくる。

平野 それは気になる動きですね。実は2018年に漁業法の改正がなされて、外国資本の企業も漁業に簡単に参入できるようになったんです。定置網漁業や養殖業の漁業権は、どこの漁港でも、地元に配慮した優先権がありました。普通はまず地元漁業協同組合がおさえた上で、その他の株式会社や法人が入ってくるようになっていた。それを法改正で横並びにしてしまったのです。漁業計画を出す法人が同列で競争して、いい企画を書いたところに漁業権がいくというルールにしたわけですから、ロシア資本の漁業会社が参入したければ、入ってこられます。

佐藤 国土を買われるだけでなく、海も買われるということですね。

平野 それだけではありません。実はこの5年ほどの間に、実態上、日本の国内法人に限られていた領域へ、どんどん外国企業が参入できるよう法改正がなされています。2016年の農地法改正では、農地の買収制限を大幅に緩和して、法人の役員の過半数が農業従事者でなければならなかったルールをなくし、「重要な使用人」が1人だけいればいいことになりました。これにともなって、要件を満たす法人の呼称も、農業生産法人から農地所有適格法人へと変更されました。

佐藤 そこに国籍条項はないのですね。

平野 ありません。農地所有適格法人は外国資本でもかまいません。また森林についても、民有林に管理権が設定されて、やる気のない山林所有者に対しては、管理権を得た民間事業者がなかば強権的に伐採できるようになり、国有林についても管理権を設定、その売買もできるようにしました。

佐藤 ここにも国籍の制限はない。

平野 はい。国は死蔵されている地域資源を活用する方向に大きく舵を切ったわけですが、グローバル化が叫ばれているなか、ここには外資への期待が滲んでいる。他にも水道法の改正で民間による上下水道の運営を認め、入国管理法の改正では、外国人労働者の在留資格を14業種に拡大しました。5年で34万人の受け入れが目標です。もちろんそこには農業、漁業が入っています。これらは、みな外資を呼び込む政策と言っていいと思います。

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