後継者「金与正」で金王朝は終焉する――李 相哲(龍谷大学教授)【佐藤優の頂上対決】

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金正恩重体説

佐藤 その金日成体制を引き継ぐ金正恩が、4月に20日ほど姿を見せず、死亡説まで流れました。これをどのようにご覧になっていますか。

 金日成の誕生日である4月15日の太陽節に、金日成の遺体が安置されている太陽宮殿へ参拝しなかったことからこの騒ぎが起きました。そして4月20日から24日まで、米韓で戦略爆撃機B-1Bも参加した空軍演習が行われましたが、いつもは口汚く罵る北朝鮮が無反応でした。

佐藤 さまざまな情報が飛び交いました。

 主に三つの説がありました。一つ目は、心臓のステント手術をして、それが失敗した。ステント手術はこれまでに2回受けているといわれています。本来なら手術にフランスから医師を呼びますが、コロナの影響でそれができず、北朝鮮の医師が行なった。しかしうまくいかず、中国から医師団を呼んだというものです。

佐藤 中国からの医師団派遣はロイターが報じました。

 4月23日に出発したとありましたが、私が情報を得たのは22日。19日あたりからまず6名の医師が行っています。ロイターの報じた23日の50人の医師団というのは、医師団を装った政府代表団じゃないかと考えていました。

佐藤 私もその頃、脳死状態にあるのではないかという情報が中東ルートで入ってきました。

 北朝鮮は中東でマネーロンダリングしていますからね。二つ目は、4月14日の巡航ミサイル発射実験で事故に遭ったというものですが、彼と出歩く幹部たちが無事ですから、これはありえない。三つ目は、金正恩が放心状態で何もしたくない状態だという説です。

佐藤 メンタルですね。

 はい。もともと金正恩は鬱病だという話があります。今年は経済を独自路線で立て直すはずが、頼りの中国からの観光客がコロナで来られなくなった。自ら国境を封鎖してしまいましたからね。習近平は年間100万人の観光客を送ると約束していたんです。それがなくなり、打つ手なしの状態でした。

佐藤 でも5月1日に順川リン酸肥料工場の竣工式に姿を現しました。

 翌日、まずその様子がラジオで報じられ、次に写真、映像が公開されました。映像を見ると、歩く際に左足が遅れていたり、カートで移動したりし、顔写真では顔がむくんでいます。映像は本物だと思いますが、完全に健康不安を払拭できたかといえば、そうではない。しかもその後の動静が伝えられていない。また、雲隠れしていた20日間、どこで何をしていたのかという疑問も解消されていません。

佐藤 何らかの異変が起きていた。

 台湾の情報機関である国家安全局の邱国正局長が国会答弁ではっきり病気だと述べています。金正恩が20日以上、姿を現さなかったことは5回あるとされていますが、少なくとも今回はその間、仕事ができない状況にあったのは間違いないと思います。

佐藤 金正恩重体説の第一報はアメリカのCNNでした。でも北朝鮮の情報に強いのはやはり中国とロシアではないですか。

 今回の情報の多くは中国から出てきました。北朝鮮ではいま、中国の諜報員2千人が活動していると聞いたことがあります。今回は当初から健康不安を打ち消していた韓国は、昔はヒューミント(人を介した諜報)があったのですが、金大中の左派政権以降、情報網が大きく毀損され、文在寅政権では、ほとんどなくなっていると見られています。

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