「従軍慰安婦」が歴史教科書に復活 どこが問題か? 一からわかる「慰安婦問題」(1)

国際 韓国・北朝鮮

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 報道のエネルギーの大半が新型コロナウイルスに注力されているために、あまり注目を集めなかったのだが、3月24日の産経新聞は同紙が長年こだわっている「慰安婦」関連の記事を掲載している。中学生向けの一部の歴史教科書に「いわゆる従軍慰安婦」という表現が登場した、ということを問題視した記事だ。また、南京で日本兵が市民を暴行、虐殺する様子を描いた描写もあるという。産経新聞としては、こうした「自虐的」な記述が教科書に載り続けることは看過できないのだろう。

 よく知られるように、この問題では朝日新聞が誤報を謝罪したり、あるいは日韓の間で「最終かつ不可逆的な合意」が交わされたりしたものの、いまだに論者、専門家によって言うことがかなり異なる。さらに国によっても主張が甚だしく異なる。そのため何が事実なのかがとてもわかりにくい。一度学んだはずでもすぐにわからなくなる。

 公文書の解読から歴史を研究している有馬哲夫・早稲田大学教授は、著書『こうして歴史問題は捏造される』の中で、「『南京事件』『慰安婦問題』の論議を冷静に検討する」という章を設けて、可能な限り客観的にこの問題を解説することを試みている。以下、4回にわたって、その個所を抜粋して引用しよう。

朝鮮人慰安婦は20万人いたか

 いわゆる「慰安婦問題」に関しては、現在「20万人の朝鮮人女性が日本軍や官憲によって強制的に慰安婦にされた」という途方もない言説が世界に広まっています。これは複雑な経緯があってこういうことになっていますが、まったく歴史的事実に反しているということを最初にいっておきます。また、そもそもこれは、「歴史問題」ではないということも断っておきましょう。その上で、反証可能な歴史論議によってこの言説を検討してみましょう。

 まず、20万人という数ですが、これはアメリカなど海外のメディアで報じられている数で、クマラスワミ報告書のなかにあります。しかし、その根拠は北朝鮮当局が出した数字です。北朝鮮はジェノサイド(集団虐殺)も主張しています。

 北朝鮮のいうことは全部嘘だ、とまではいいませんが、問題は報告者のラディカ・クマラスワミが北朝鮮に招かれていたにもかかわらず調査にいかず、代わりの「人権センターの代表団」に行かせ、北朝鮮側が用意した「慰安婦」の証言を鵜呑みにして報告書を作っていることです。つまり、意図のある聞き手が意図のある証言者から得た、反証可能性のない、一方的な証言なのです。それなのに、なんの事実確認も検証もせず、そのまま報告書に記載しています。お読みいただいた方はその内容がいかに信じがたいものかお分かりだろうと思います。まだの方は、ぜひアクセスして確かめてみてください。

 さて、20万人という数を反証可能なデータに照らし合わせてみるとどうなるのでしょうか。

 日本の領土内(朝鮮半島、台湾などを含む)には慰安所はありませんでした。したがって、慰安婦が相手をしたのは、占領地や戦地の日本兵です。

 日本から大陸に渡った日本軍の兵士の総数は約300万人です。もちろん、戦争中増減があり、末期にはかなり減ります。そうすると最多の時期でも兵士15人につき慰安婦が1人という割合になります。日本軍の幹部が兵士150人につき1人の慰安婦が必要だと考えていたという記録が残っていますが、この数はその10倍にものぼります。

 さらに、日本軍の慰安所についてのさまざまな記録や文書によると、慰安婦は民族別では、日本人、朝鮮人(ただし民族的区別としては朝鮮人ですが、当時は国籍的には日本人)、中国人、その他(現地女性、東南アジアに住む中国系女性、ヨーロッパ人とアジア人の混血ユーラシアンを含む)がいたとされています。慰安婦に関するさまざまな公文書の記述を読む限り、場所によってかなり違うものの、朝鮮人女性が全体の過半数を超えるとは思えません。
 
 30から40パーセント、最大でも約半分だったと思われます。朝鮮人慰安婦だけで20万人いたとなると、慰安婦の民族別比率から考えて日朝中その他併せて慰安婦の総数は40万人から70万人ほどいたことになります。

 およそ300万人の日本軍が約40万~70万人もの慰安婦を引き連れて戦争していたということになりますが、この辺からますますおかしいということがはっきりします。戦場に、多数の非戦闘員を連れて行くのは、それだけでリスクが大きいのです。

 慰安婦の研究者、吉見義明は慰安婦の総数を5万~20万人としています。これに対し、吉見とはだいたいにおいて反対の主張をしている研究者の秦郁彦は6万~9万人と見積もっています。研究者はいろいろな可能性を考えて、幅を持たせて概算します。「30万人虐殺された」とか「20万人慰安婦にされた」というプロパガンダのような単純化はしないのです。

 さて、両者の概数を総合すると、朝鮮人慰安婦の数は慰安婦全体の半数だとして、2.5万~10万人だということになります。南京事件の30万人の犠牲者と同様、朝鮮人慰安婦20万人説はあり得ないという事がわかります。

 10万人も相当怪しく、前述の日本軍の幹部の算定式を参考にして、下限の2.5万人ならばあり得るかもしれないという考え方ができます。

 なぜ、こんな理性的、論理的考え方をクマラスワミができなかったのか不思議です。

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 朝鮮人慰安婦(従軍慰安婦ではない)の人数についてはかなり水増しされているのがよくわかる。次回は、「強制連行」についての議論を整理してみよう。

デイリー新潮編集部

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