「古市憲寿」×東大生クイズプレーヤー「鈴木光」 巣ごもりで考えたい勉強とは何か

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人は分かり合えない

古市 不確かな情報で瀧本さんの訃報を知りました。斎場も分からなかったのですが居ても立ってもいられず、瀧本さんと交流があった俳優の佐藤健くんたちを呼んで一緒にいました。誰かと瀧本さんの話をしていたかったんです。お通夜は終わった後でしたけど、途中で場所がわかって、瀧本さんと対面することができました。その頃、僕はすごく動揺していました。後から気付いたのは、瀧本さんがいなくなって、とても不安だったということ。そうか、この人がいない世界ってこんなに不安なのかって。

鈴木 私自身もお世話になりました。例えば、弁護士になりたいって話をしたら、こういうセミナーで講演やるからよかったら来たらとか。教育者としても素晴らしい方だと思います。

古市 瀧本さんの話は尽きませんが、話を戻しましょう。先ほど1日最低8時間は勉強すると言っていましたね。勉強していない時は何をしていますか?

鈴木 音楽を聴くのは好きです。バンドもやっていました。ギター弾いたりベース弾いたりピアノ弾いたり。今も息抜きみたいな感じで。椎名林檎さんや鬼束ちひろさんが好きですね。

古市 鬼束さんは僕もよく聴いています。ライブも何回か行ったことがあるんですけど、調子のいい時期と悪い時期が両極端な方ですよね。一回調子の悪い時期に行ったライブでは、歌えていないだけでなく、MCの声すらかすれていて何を言っているかわからない。僕はそういう不安定な人が好きなんです。もしかしたら、全ての創作者がそういう安定と不安定を行き来しているのかもしれない。

鈴木 古市さんの『奈落』(新潮社刊)もそういう要素がありますよね。

古市 小説も読んでいただいてありがとうございます。『奈落』の主人公はまさに一世を風靡した歌姫です。

鈴木 後半になればなるほど引き込まれる。小説家の古市さんとして確立されていく過程そのものみたいな気がしました。最初のほうってどこか客観視しているような、社会学者としての古市さんを私は感じ取ったのですが、後半は第三者として引きの目から徐々に登場人物と書き手の古市さんが同一化していくように感じて。社会学者としての古市さんから小説家としての古市さんに移行する過程でしょう。最後の2章には揺さぶられました。

古市 テレビで言うとコンプライアンスで問題になりそうなことをたくさん書きました。特に冒頭は書いていて、ストレス解消にもなりましたね(笑)。

鈴木 小説で描きたかったことは何ですか?

古市 今回は身体に障害を負ってしまった歌手の話ですが、徹底的なディスコミュニケーションを描きたかった。主人公は喋れないし、感覚はあるけれども好きな相手とは通じ合えない。実際、僕らがこうして喋っていても、絶対に誤解は生まれますよね。言葉があっても、人は分かり合えない。その極北がこの小説ですね。

鈴木 よく分かります。

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