英語の早期教育、本当に必要? 中途半端な「セミリンガル」を生む恐れ 韓国の二の舞に

国内 社会 週刊新潮 2020年3月26日号掲載

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幼少期の英会話が招く学力崩壊――榎本博明(1/2)

 人口減少が続く日本で、今後の経済成長にはグローバル化やインバウンドが欠かせない、だから英会話くらいできなくては――。いまや幼稚園児までもが英会話教室に通う時代。その裏で進行する子どもたちの“学力崩壊”に、教育心理学の専門家が警鐘を鳴らす。

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 この2020年4月から、いよいよ小学校での英語が必修化されます。すでに18年度から、そのための準備期間として小学校での英語の授業は始まっていたのですが、今年からそれが正規の科目となるのです。

 具体的には、3、4年生では年35コマの「外国語活動」が、5、6年生では年70コマの「英語」の授業が導入されます。このうち、5、6年生の「英語」は正式な科目とされ、その成績は通知表にも反映されます。

 そうなると、英語の成績が中学受験などにも影響してくるため、多くの親は子どもの英語教育に関心を持たざるを得なくなる。近年、幼稚園児や保育園児を対象とした英会話スクールや、すべての活動を英語で行うという「バイリンガル幼稚園」などが流行っているのも、こうした流れの中で起きていることです。

 実は、小学校で英語を教えることについては、ちょっと前までは反対意見も根強くありました。例えば2006年の朝日新聞の意識調査では、小学校での英語教育について「賛成」は38%、「反対」が52%でした。反対の理由としては、「国語がおろそかになる」というものが多かった。

 それが7年後の2013年になると、「賛成」59%、「反対」41%に逆転します。さらに、16年の日経新聞による調査では、英語教育の早期化に「賛成」が77・9%、「反対」は22・1%でした。特に30代の女性は90%が賛成という圧倒的な結果だったのです。わずか十数年で、世論が百八十度変わってしまったわけです。

 雑誌「ケイコとマナブ」が、小学生以下の子どもを習い事に通わせる親を対象に調査した「今後子どもに習わせたい習い事ランキング」でも、「英語・英会話」が水泳や書道を抑えて5年連続で1位を占めました。わが子になるべく早く英語を学ばせたいと考える親は、増加の一途をたどっています。

 しかし、幼少期の英語教育は本当に必要なのでしょうか。実は専門家の間では、早く教育を始めたほうがより英語ができるようになるというのは幻想に過ぎず、母語(日本人にとっては日本語)を習得してからのほうが、外国語も効果的に習得できると言われているのです。これは日本人に限った話ではなく、それを証明する研究結果が各国で発表されています。

 たとえば、国内に英語圏とフランス語圏を抱えるカナダでは、こんな事例があります。英語圏からフランス語圏に引っ越してきた子どもたちのうち、低学年で来た子は、友達とフランス語で話し始めるのは早いものの、教室で使うフランス語はいい加減で、特にレポートを書くのが苦手な傾向が強い。逆に、高学年で来た子は、新しい友達をつくるのに何カ月もかかるものの、まもなく教室での学習には不自由なくフランス語を使えるようになるといいます。

 トロント大学のジム・カミンズ教授と名古屋外国語大学の中島和子教授が、トロント在住の日本人小学生59人を対象に調査した結果も同様でした。母語をきちんと身につけてからカナダに移住した子どもは、しばらくすると現地の子ども並みの読み書き能力を習得できた。それに対し、母語が確立される前の幼少期に移住した子は、発音は割と早く習得するものの、読み書き能力はなかなか身につかなかったのです。

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