広島・鈴木誠也、丸の“巨人移籍”で見せ始めた“新たな顔”

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 リーグ4連覇が絶望的になった広島だが、着実に進化を遂げているスラッガーがいる。今季は初の打撃タイトルとなる首位打者の獲得が有力な鈴木誠也だ。

チームの3連覇が始まった2016年に交流戦の2試合連続サヨナラ本塁打でブレイクし、年を追うごとに凄みを増している鈴木とはどんな選手なのか。昨季まで鈴木のチームメイトとして広島でプレーし、今季から野球解説者となった天谷宗一郎氏に聞いた。

「今年の春季キャンプ前に、一緒に食事をしたことがあったのですが、どうすればチームが良くなるのか、そんなことばかりを話していました。誠也は先月、25歳になったばかりですが、私がその年齢の時は、自分のことだけで精一杯でした。誠也も今はそれなりの年俸をもらっているし、チームでの立場を考えても、それは必要なことなのかもしれません。それでも本人の口から直接そんな話を聞いて、本当に野球のことを真剣に考えているな、さすがだなと感じました」

 二松学舎大付属高校では速球派の投手として活躍した鈴木だが、広島には内野手として入団した。高卒1年目から一軍で初安打、初打点を記録し、プロ3年目の2015年から外野手に転向すると、すぐに一軍定着を果たした。天谷氏が当時を振り返る。

「バッティングに関して言えば、最初の頃は、初球からとにかく振るという感じで、狙っていないようなボールも打ちにいって、当時の二軍監督だった内田順三さんに怒られている姿をしょっちゅう見ました。それでも、怒られても、怒られても、しっかり振りに行く姿勢は当時からありましたね。首脳陣からすれば、あれだけの選手は使いたくなるだろうな、というものを感じさせる選手だったと思います」

 日々、成長する姿に次第に脅威を感じ始めていたという天谷氏だが、転機となったのは、あのヒットメーカーに自ら弟子入り志願した頃ではないかと言う。

「内川(聖一)さんと一緒に自主トレをするようになったあたりから、バッティングが変わったように思います。もともとあった振れる能力と体の強さに加えて、内川さんの打撃技術がプラスアルファとなり、いい方に働いていったのでしょう。ここ数年、誠也は一流選手と言える成績を残していますが、今でも内川さんのところに通い続けています。自分を客観視して、まだ内川さんより劣っているということを感じているからでしょう。自分自身、しっかり足元を見つめてやれている証拠だと思います」

 技術面では、レベルが違いすぎて評論が難しいと、天谷氏は半ばあきれ返ったような様子で話を続けた。

「練習を見て、いいバッティングをしているなと思っても、誠也は首を傾げたりしている。凡人にはわからない部分があるのでしょう。もちろん、誠也にも理想の形というものがあるはずですが、たとえそれができていなくても、標準以上の数字を残せてしまう。だからこそ悩んでいるとも思えるし、それぐらいの技術はあると思います」

 鈴木は打率や本塁打数など、個人記録にほとんど関心を示さないが、1打席1打席に対する思いは強い。3割打てば一流、という世界だが、その範疇には収まらない。

「試合で4打数3安打という結果を残しても、打てなかった1打席を悔やんでいる。そこが誠也の凄さだと思います。だからその翌日でも打撃フォームを変えてみたり、常にいいものにアップデートしようという姿勢が見える。契約更改の時に打率10割を目指すと言ったことがありましたが、冗談で言っているとしても、どこかで狙っているところもあるように思える。私生活を含めて、普段からの野球に対する取り組み方を見ていると、バカなことを言っているなと思えない部分がありますね。あれだけやっているのだから、そんなことも言えるのだと納得してしまうぐらいのことを誠也はやっています」

 常勝チームとなった現在のチームで中軸を任される立場になって、打席での姿勢も変わった。

「三連覇したチームから丸が抜けて、誠也も背負うものが大きくなった。その中でプレッシャーも相当あるはずなのに、自分で決めるという部分以外でも、つなぐ打撃や、アウトでも内容のあるアウトなど、カープらしい、いいバッティングができています。他球団にマークされる存在になっても、無理やり打ちにいくことをせず、しっかりフォアボールも取れている。我慢ができている、ということが一番凄いと思います」

 守備面では「あの強肩。送球だけでファンを沸かせることができるのは羨ましい」という天谷氏は、後輩の鈴木に質問することも少なくなかったという。フライの処理など、技術面でも年々レベルアップを感じているというが、今季は新たな顔も見せているようだ。

「昨年まではセンターの丸と非常にいい連携を見せていました。丸が移籍した今季は、当初は野間がセンターに入って、現在は(西川)龍馬がポジションをつかんでいます。龍馬は内野手なので、最初はほぼ素人のようなところから始まっていましたが、誠也がいい声かけをしたり、サポートをしたりすることで、かなり上手くなってきました。そういう意味でも、外野手のリーダーとしての自覚は間違いなく出てきていますね」

 内川との自主トレに高卒3年目で非凡な打撃センスが評判の坂倉将吾を同行させるなど、「後輩の面倒見もいいし、ダメなことはダメと、バシッと言うこともできる」という鈴木には「ついていきたいと思う若手が山ほどいる」と天谷氏は言う。一昨年に右足首の骨折でリタイアしている間は、同じく故障でリハビリをしていた同級生の床田寛樹と、投手と野手と立場は違うが、お互いに苦しい状況で支えあった。「そういう意味では、いいものをカープに還元している」とインフルエンサーとしての存在感も大きくなっている。

 来年行われる東京五輪では、侍ジャパンの主軸選手として期待される鈴木誠也。近い将来にはトリプルスリーや三冠王など、夢は限りなく膨らんでいくが、天谷氏が望む未来図は、OBや評論家の観点というよりは、むしろファンに近いものだった。

「僕は誠也にはこのまま、野球小僧のままでいてもらいたい。何年経っても、変わらない誠也でいてもらいたいと思っています。一緒にやっている選手のファンになるということはほとんどないですが、純粋に誠也を見ているとワクワクするし、何かやってくれるのではないかと期待してしまう。おそらく周りの選手も、そんな風に感じているのではないでしょうか」

 鈴木誠也にとって、初タイトルとなる首位打者の称号は、これから始まる伝説の序章に過ぎないのかもしれない。

週刊新潮WEB取材班

2019年9月15日掲載

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