「四世紀ぶりの孤立」を招いた文在寅、日本と北朝鮮から挟み撃ち

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2019年8月20日掲載

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 文在寅(ムン・ジェイン)大統領に元気がない。日本に対する罵倒もトーンダウンした。北朝鮮に侮辱されても揉み手するばかり。「外交の天才」を自認していたというのに、どうしたのか。韓国観察者の鈴置高史氏が「韓国の孤立」を読み解く。

また、日本にケンカを売った韓国

鈴置:韓国がまた、日本にケンカを売りました。国民年金公団の理事長が「日本の戦犯企業の株は売り払うことを検討する」と宣言したのです。

 キム・ソンジュ理事長がFT(フィナンシャル・タイムズ)の取材に答え、語りました。FTの「Korean pension fund reviews Japan investments over ‘war crimes’」(8月12日)から、発言部分を引用します。

・“We are in the process of adopting a new guideline of responsible investment and we are reviewing whether Japanese ‘war crime companies’ should be excluded from our investment list,” Kim Sung-joo, NPS chair, told the Financial Times in Seoul.

 「戦犯企業」とは韓国での呼び方で、第2次世界大戦中に当時の朝鮮人を徴用したとされる日本企業を指します。

2018年10月30日、韓国の最高裁判所が「戦犯企業」である新日鉄住金(現・日本製鉄)に対し、自称・元徴用工に慰謝料を支払うよう命じました。韓国の裁判所は三菱重工業など「戦犯企業」に相次ぎ、同様の判決を下しています。

これに対し日本政府は「日韓請求権協定で解決済みの問題だ」と強く反発し、韓国政府に「国際法違反の状態の是正」を求めています。

逆襲呼ぶ「日本株売り」

――日韓関係悪化の原因の一つですね。

鈴置:その通りです。韓国では、国民のカネを運用する国民年金公団が「戦犯企業」の株を保有すべきではない、との声が出ていました。そうした空気の下、キム・ソンジュ理事長は「売却を検討中」と語ったのです。

 この発言に飛びあがって驚いたのが、保守系紙でした。中央日報は翌8月13日の社説「政権側は大統領の『感情的な対応の自制』を無視するつもりか」(韓国語版)で厳しく批判しました。理由を説いたのが以下の部分です。要約しつつ引用します。

・韓国政府認定の戦犯企業は299社ある。国民年金はそのうちの75社に、1兆2300億ウォン(約1082億円)を投資している。三菱、トヨタ、住友、日立、東芝など日本有数の企業が含まれる。

・これら企業への投資を撤回、あるいは中断する場合、日本との葛藤を金融・投資分野に拡大することになろう。日本の公的年金(GPIF)は韓国資本市場で約7兆ウォン(約6200億円)投資している。

・これらの資金が韓国から引き揚げられれば、他の外国からの資金はもちろん、その他の領域での動きまでも刺激しかねない。ただでさえ困難に直面している我が国の経済が、新たな不確実性までを甘受する必要はない。

 朝鮮日報の社説「国民年金を収益率向上以外の目的で使うな」(8月15日、韓国語版)も「金融分野での日本の反撃を呼ぶ」と、同じ理由で理事長発言を批判しました。

・もし、韓国の国民年金が(日本企業から)投資資金を引き揚げれば、韓国企業に投資中の日本の公的年金も同じ方式で報復に出るであろう。

財閥経営に介入する国民年金

――キム・ソンジュ理事長は本気で言っているのでしょうか。

鈴置:韓国では「本気」と受け止められました。この人は経済の専門家ではありません。盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅両氏の選挙運動に参加し、今のポストを得た左派の政治家です。

 2017年11月の理事長就任以来、キム・ソンジュ氏は国民年金が大株主であることをテコに、財閥の経営に介入し始めました(「文在寅で進む韓国の『ベネズエラ化』、反米派と親米派の対立で遂に始まる〝最終戦争〟」参照)。

 「脅すことで財閥を政権の支配下に置く狙い」と韓国の保守は見ています。「財閥国有化の一歩」と警戒する人もいる。もちろん「財閥叩き」により、国民の拍手喝采を得る狙いもあるでしょう。

 キム・ソンジュ理事長は、文在寅大統領の喜びそうなことなら、結果など考えずに何でもやると見られている。保守系紙が「そんなバカなことをすれば、資本逃避が起きるぞ」と慌てて止めに回ったのも当然なのです。

韓国企業まで韓国脱出

――「日本株売り」宣言に、大統領は喜んだのでしょうか。

鈴置:普通の状態なら「よくやった」と頭をなでたでしょう。しかし今は緊急事態です。

 米中経済戦争のあおりを受け、韓国株とウォンは売られています。それに日韓経済戦争が拍車をかけました。韓国では、日本との戦争を始めた文在寅政権に対し批判が高まっています(「韓国株・為替ともに急落 日韓経済戦争の『戦犯』文在寅に保守から『やめろ』コール」参照)。

 韓国証券市場で外国人は7月31日以来、連日、売り越しています。8月19日には「13営業日連続」の記録を作りました。

 KOSPI(韓国株価総合指数)は8月2日に心理的抵抗線とされた2000を割り込んだ後は、その水準を回復できないままです。

 ウォンも8月5日に「防衛線」とされてきた1ドル=1200ウォンをあっさり突破。1210ウォンを挟んで動く展開になっています。

 朝鮮日報は社説「米中経済戦争が拡大、より深刻な事態に」(韓国語版、8月10日)で「韓国企業までが韓国から逃げ出し始めた」と指摘しました。

・すでに証券市場と為替市場から外国人が離脱する兆しが見えている。韓国経済が直面するリスクを避けようと、海外に移る企業も増えている。

 この社説はそれ以上説明していませんが、工場を海外に移転する韓国企業が増えていることを指していると思われます。

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