「四世紀ぶりの孤立」を招いた文在寅、日本と北朝鮮から挟み撃ち

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左派からも文在寅批判

――これだけバカにされて、韓国人は怒らないのでしょうか。

鈴置:保守は烈火のごとくに怒っています。北朝鮮に対してだけではありません。「犬」扱いされても、ミサイルやロケット砲を連日のように撃たれても、対話路線を掲げる文在寅政権に対して、です。

 保守政党と保守系紙は、ことあるごとに文在寅政権の弱腰を非難します。興味深いのは、左派からも文在寅政権への不満が漏れ始めたことです。

 例えば、8月16日の「祖平統代弁人、朝鮮に言い掛かりをつけた南朝鮮当局者の妄言を糾弾」に対し、左派の少数野党である正義党は「我が政府も、もう少し強いメッセージで北を対話に引き出すべきだ」と論評しました。

 文在寅政権を支持していた人々も「悪口を言われっぱなし」「ミサイルを撃たれっぱなし」の状態にフラストレーションを高めています。彼らと話していても、ツイッターなどを覗いても、それがはっきりしてきました。

 文在寅政権から支持層が離れて行く前触れなのかもしれません。この政権にとって深刻な問題になるでしょう。

 日本との経済戦争を理由に政権を批判する人も増えていますが、多くは保守層。もともと反文在寅の人たちなのです。それに加え、支持層までが批判に回ったら大変です。

「安倍よりよくやっている」

――なぜ、文在寅政権は「言われっぱなし」なのでしょうか。

鈴置:この政権の存在意義が「北朝鮮との和解」にあるからです。「言い返し」て、北朝鮮との関係が悪化すれば、過去の保守政権と何ら変わりがなくなってしまう。

 ことに、「この政権が――韓国が、対立していた米朝を仲介して歴史的な首脳会談を実現した」という神話を、国民に広めてしまった後なのです。

 政権に近い韓国人は、文在寅大統領の「外交の天才ぶり」を日本人にも誇りました。日本の専門家の中には、これを真に受け「安倍よりもよくやっている」と褒めそやす人もいました。

 北朝鮮に罵倒されようが、嘲笑されようが、文在寅政権は「天才的な仲介者」のフリを続けねばなりません。その化けの皮が剥がれたら、「我々はまたしても肝心な時に自分の運命を決められなかった」との怒りが政権に向けられるでしょう。

オンドルの上で死ねるか

――でも、米朝双方からこれだけ軽んじられているのです。自らが「仲介者」であると信じる韓国人がまだいるのですか?

鈴置:確かに、化けの皮ははがれ始めました。でも政権としては、今さら後戻りできない。最後まで「平和を呼んだ仲介者」の演技を続けるしかないのです。傍目にはそれがいかに見苦しい猿芝居でも。

 韓国の歴代大統領の末路は哀れです。畳の上で――韓国には畳はないので、オンドルの上で死んだ大統領はいません。

 歴代政権もそれは分かっているから「とてつもない大きな成果」をあげ、それを盾に下野後の安泰を図る。

 文在寅大統領も「仲介者」の称号は、どんなにぼろぼろになっても絶対に手放さないでしょう。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年8月20日掲載

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