就職氷河期世代・二児の母が親世代の「専業主婦家庭の完璧育児」の呪縛から解放されるまで

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 現代社会を生きる女性が避けては通れない「婚活」「結婚」「妊活」「子育て」。これらのライフイベントに伴う様々な困難にぶつかりつつも、彼女たちは最終的には自分なりに編み出した「ライフハック」で壁を乗り越えていきます。読めば勇気が湧いてくるノンフィクション連載「女のライフハック」、待望の第2回です。

 第1回はこちら https://www.dailyshincho.jp/article/2019/07091100/

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娘を言いなりにさせることばかり考えていた

「子ガチャ」という俗語がある。生まれてくる子どもの性質や能力は、親が任意に選べるものではなく、半ば運任せであることを、ソーシャルゲームの「ガチャ」に喩えた言い方だ。

 ネット上では、なかなか寝てくれない子や、好き嫌いが激しく小食、敏感でずっと抱っこしていないといけなかったり、はたまた反対に元気すぎて手に負えないといった理由などで、子育てに悩んでいる母親を労るために、使われることも多い。それは世間一般では、扱いにくい子に対して、その責任は親にあり、「育て方が悪い」とされる風潮があるせいだ。

 けれど、たとえ「子どもがガチャだから」と慰められたとしても、多くの母親は、「自分の育て方が悪いせいだ」と悩み、そして疑問を抱く。「なぜ、この子は、こんなに育てにくいんだろう」と。真奈美さん(仮名・43歳 家族構成:長女9歳、長男5歳、飼い犬15歳、夫とは現在は離婚)の長女、絵美ちゃん(仮名)もそうだった。

 真奈美さんと絵美ちゃんを襲った最大の危機は、絵美ちゃんが2年保育で幼稚園に入ったばかりの頃だった。

「娘も慣れない新しい環境で、いろいろ大変だったんだと思うんですけど、わたしもわたしで、毎日お弁当を作らないといけないっていうのと、やたらと行事も多くて、また娘との関わり合いが増えるっていうんで、お互いにイライラしていたんですよね。

 それである日、幼稚園から帰る時に、娘が『嫌だ、家に帰らない、遊ぶ!』ってごね出して。なんとか無理やりに連れて帰ってきたんですけど、家のちょっと手前でまた、激しく暴れ始めて。ちょうどその時、旦那が家にいて、それで『うるさいなぁ』って出てきて、抱え込んで家に入ったんです」

 靴も脱がせることが出来ないほど暴れる絵美ちゃんを仕方なく、自宅の2階にある子ども部屋に押しこみ、扉が開かないように外から突っ張り棒でロックしたという。そうして、上階の様子を窺いながら、夫婦で「まだ落ち着かないね。落ち着いたら話をしよう」と話していたところに、外で何か大きな物音がしたという。

「本当に、あの音は、今だに忘れられないんだけど、ソファが2階から落ちたような音がして。旦那とふたりで、慌てて外に出たら、血まみれの娘がいて。本当は頭を打った人って動かしたらいけないんですけど、その時は、慌てて抱えて家に入りました。で、ぐったりしているところを、ゆさぶっちゃったんですけど、夫は意外と冷静で、救急車を呼んでくれて。

 それで救急車だけくるのかと思ったら、ドクターカーとドクターヘリに、警察まで大集結したんですよね。警察に病院まで付き添われて、集中治療室に入ったんですけど、刑事15、6人に取り囲まれて、『お前らが犯人だろ』って目でずっと見られてるんです。わたしはその時、下の子をおんぶしていたんですけど、急激に体調が悪くなって下痢が止まらなくなって。トイレに何度も往復していたらあの母親があやしいって目でさらに見られて」

 絵美ちゃんは頭蓋骨骨折と硬膜外血腫という大怪我を負ったものの、幸運にも命に別状はなかった。その夜、真奈美さん夫婦は自宅に戻ることになり、朝まで警察の現場検証を受け、後日も刑事の取り調べを受ける中で、あることに気が付いたという。

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