就職氷河期世代・二児の母が親世代の「専業主婦家庭の完璧育児」の呪縛から解放されるまで

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自我の強い娘とのバトルで学んだライフハック

「『ちょっとうちは普通じゃないかも』ってことに気が付いたんです。それまではとにかく夢中すぎて、気がつけなかったんですよね。『どうしたらこの子が普通の、そこらで見かけるベビーカーに乗って、笑っている子どもたちみたいに、普通に過ごせるのか』って。

 生まれた時から、普通にミルクも飲めない。ベビーカーにも、チャイルドシートにも乗らないのは、なんでなんだろう。とにかく娘を落ち着かせること、悪い言い方をすれば言いなりにさせるってこと、そればかり考えて来ていたんです」

 事件後、介入することになった保健師からは、発達障害を疑われ、何度か紹介された療育にも通ったものの、そこでの行動を見て、発達障害ではないように思え、そして、気難しい絵美ちゃんを、2駅先まで送り迎えするハードルの高さに断念した。

 しかし、その頃生まれた第2子の育児を通して状況が変わったという。

「下の子が生まれてからは、下の子がかわいくなっちゃったんです。下の子は男の子なんですが、ミルクもよく飲んでくれるし、母乳もふんだんに出て、最初からすごく楽で。それに、娘が幼稚園の送りもお迎えも『ママじゃないと嫌だ』っていうんで、わたし、2人目の出産・退院後、つまり出産してからわずか5日目で自転車に乗ったんですよ。『わたしが! わたしが!』ってタイプだったんで、聞かざるを得なくて。それで、母親がいても、やってもらうことがないっていうんで、帰ってもらって」

 真奈美さんにとってストレスとなる実母を追い払ったのは、奇しくも絵美ちゃんだった。さらには、長男との関わりを通して、少しずつ絵美ちゃんへの感情も変化してきたとも言う。

「これは私と娘のターニングポイントなんですけど、娘が小学1年生のある時、弟の世話をしながら『私はシンデレラか!』とジョーク交じりに突っ込んできたんです。『この子は賢いなぁ』って見方が大きく変わりましたね。

 それに、娘は娘で、わたしにないものをたくさん持っているんですよ。自我が強いけれど、体調を崩して寝込んでいるときは介抱してくれるし、息子をお風呂に入れてくれたりと、親のフォローをさりげなくしてくれる。いい話相手にもなるので、離婚後も孤独にならず、子どもたちために頑張らなければっていう私の、原動力になっていると思います」

 2階からの転落事故の際、長期入院した時の恩返しがしたいと、看護師になる夢を持っている絵美ちゃんのことも、誇りに思えるという真奈美さんが、最近もうひとつ気が付いたことがあるという。

「これまでの、娘とのバトルで学んだことがあって、それは大きな声で言うと、子どもも大きな声で反発してくるんです。だから話したい時は耳元でこそこそこそ、と話すように決めましたね。小さい頃、向こうもこっちも感情的になって、押さえつけたり、叩いてしまっていたのは、お互いに感情がヒートアップしてしまっていたからなんです。わたしも自己主張が激しいほうだし、娘も激しい子で、個性がぶつかりあっていたんですよ。

 でも最近は、個性がぶつからないように『相談があるんだけど』とか『言っておきたいんだけど』とかって、わざと耳元でこそこそこそと話すように変えました。あとは、なかなか寝ない時なんかに土下座して『お願いします、寝てください』っていうと、子どもたちが笑ってくれるので、そういうふうに、うまくやっていこうって思っています」

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