元性犯罪者ばかりの町を取材して(古市憲寿)

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 アメリカのフロリダで元性犯罪者ばかりが住む町に行ってきた。「とくダネ!」の取材である。

 州にもよるがアメリカにはもの凄い法律がある。一度でも性犯罪で有罪になると、刑務所から出た後も一定期間(場合によっては一生)、氏名や住所、顔写真、罪状が公開されてしまうのである。たとえば「Family Watchdog」というウェブサイトに自宅住所を入力すると、グーグルマップが表示されて近隣に住む元性犯罪者の一覧が確認できてしまう。

 しかもフロリダの場合、学校や公園の近くに住んではいけないという法律もあり、なかなか「普通の街」で暮らすのが難しい。そこで様々な場所に、元性犯罪者でも住める「町」があるのだ。

 僕が「とくダネ!」で訪れたのも、その一つである「パレス・モービル・ホーム・パーク」。12年前にできたコミュニティで、今では85人が住んでいるという。政府や州からの助成はなく、もともとこの土地を所有していた人が元性犯罪者の苦境を知り、始めたプロジェクトだという。トレーラーを改造した家が何棟も設置され、各ユニットでは数人が共同生活を送っている。

 住民にも話を聞いた。まずインタビューに応じてくれたのは、庭で陽気に音楽を流していた76歳の男性。若い頃は大病院の救急病棟で働いていたという。彼は児童ポルノ画像をパソコンに5枚所持していた容疑で2年半を刑務所で過ごした。

 出所してからの7年間、彼はこの場所に住んでいる。印象的だったのは「ここに住むことで守られていると感じる」という発言だ。ここにいる限り、自分が再び犯罪に手を染める危険も、警察に捕まる可能性も限りなく低い。だからこの場所が「安全」だというのだ。

 社会が元犯罪者とどう付き合うかは難しい。刑務所などで罪を償った後は、何ら一般の市民と変わらないという考え方もできる。しかし彼らを「怖い」と思う人々がいることも事実だ。

 皮肉なのは、今回話を聞いた男性のように、元犯罪者自身が社会からの隔離を「安全」と思う場合もあるということ。アメリカでは、社会の分断が深刻だと言われるが、それは当事者同士が望んだ結果という面もあるのかも知れない。分断という言葉は悪い文脈でばかり語られるが、棲み分けとも言い換えられる。無理やり共生させられるよりも、分断された社会のほうがいいと考える人もいるだろう。

 もっとも「パレス・モービル・ホーム・パーク」は、永遠に住むために設計された場所ではない。住民は仕事を見つけ、貯金をして、ここから出て「普通の街」に戻ることが推奨されている。

 76歳の男性も本当は生まれ故郷のボストンに帰りたいと言っていた。だが居住の制限されるエリアがあまりにも多く、「橋」か「森の奥」くらいしか住む場所がないと、自嘲気味に語る。日本も元犯罪者に対して優しい国ではない。未来の日本に同じようなコミュニティができても驚かない。

 と、フロリダで真面目に取材をしてきた。何と滞在はたったの20時間である。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2019年4月11日号掲載

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