【平成最凶の事件簿3】殺人鬼「松永太」が命じた家族同士の殺し合い

社会2019年4月4日掲載

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 殺害後、犯人にとって厄介なのは遺体の存在だが、その究極は遺体そのものを「隠滅する」というケース。つまり「遺体なき殺人」である。平成14年、サッカー・ワールドカップ日韓大会が開催され、北朝鮮から拉致被害者5人が帰国したその年、発覚したのが、「北九州・連続監禁殺人事件」だった。成人男性3人、女性2人、そして10歳女児と5歳男児の計7名の人間が、骨片のひとつも残さず消えていた。

 この事件では松永太とその妻・緒方純子(ともに当時40歳)が逮捕されているが、信じがたいことに殺されていったのは、最初の1人を除き、6人は緒方の肉親と義弟であった。キーワードは「痛み」によるマインド・コントロール。たび重なる虐待(制裁)を加え、そのひとつの手段が「電気ショック」だった。

家族が1人ずつ減っていくという極限状態

 また松永は自らの手を汚さず、家族に家族を殺害、遺体を始末させていた。1人ずつ減っていくという極限状態を作り、狂気の空間がマンションの一室に醸成されていったのである。「大の大人たち」は逃げることもできず、松永の意のままに、奴隷となっていった。

 豊田正義氏の著書『消された一家─北九州・連続監禁殺人事件』には、「電気ショック」の凄まじい様子が描かれている(以下、引用は同書より)。制裁を受けているのは、1人目の被害者となる34歳の元・不動産会社男性社員。松永の詐欺を手伝い、10歳の娘とともに松永、緒方と同居していた。松永が緒形の家族を監禁し同居を始めるのはこの1件目の殺人の後、平成9年4月からのことになる。

〈「おい、電気!」
 松永のこの一言で、純子は速やかに2種類の電気コードを用意する。1本は二股(ふたまた)に裂いた導線の先端に金属製のワニ口クリップを装着したもの、もう1本は電源のコンセントにつながっている延長コード〉

 二つのコードを接触させての通電は〈断続的に1時間以上に及ぶのがざらで〉、説教や尋問を交えながら行われたという。途中、松永は酒を勧め、男性は朦朧としながらこれを飲み干した。そうして明け方まで繰り返されたのである。共犯として逮捕された緒方純子もまた、松永の虐待の被害者だった。緒方は後の裁判で、こう証言している。

〈「皿を少し強く置いた」「怖い顔で掃除している」「(通電に時間がかかり)俺の団欒(だんらん)の時間が減った」といって通電されました。痛みと恐怖で頭が一杯になり、ほかのことは一切考えられなくなりました〉

細分化した遺体を遺棄

 そして、この事件があまりに残忍と言われるのは、証拠隠滅の手段。先の豊田氏の書に詳しいが、細分化した遺体を公園の公衆トイレや〈夜更けにフェリー船上から〉海中に遺棄していた。

〈使った包丁やノコギリは川に捨て、浴室や台所は徹底的に掃除し、(被害者の)着ていた衣類もシュレッダーで刻んで捨てた〉

 すべての証拠隠滅作業が終了したのは、被害者の死から約1カ月後だった。

 この未曾有の残虐事件の結末は意外なものだった。松永、緒方と同居していた、1人目の被害男性の長女(すでに17歳となっていた)が、逃げ出し、祖父母の家に助けを求めたのである。10歳女児を手にかけた7人目の殺人から、3年9カ月も後のことだった。

 福岡県警の家宅捜査は徹底していた。浴室のタイルや配管は言うに及ばず、下水道の汚泥まで採取している。大分・竹田津港からのフェリー航路に沿って海底捜索も行った。が、有力物証は何ひとつとして発見されなかったのである。

 遺体がないのでは、立件は難しい。捜査は難航を極めた。17歳少女の「殺害を手伝わされた」「殺害現場を目撃した」との供述から、3件については辛うじて立件に持ち込めたものの、他の4件は少女の証言すらない。しかし逮捕から半年後、緒方が一転して供述を始めたのであった。松永の呪縛から、解放された瞬間だった。

 後の公判で、松永は雄弁に語っている。死体損壊・遺棄罪の公訴時効は3年。すでに罪に問えないことを、松永は知っていた。

〈私は解体の企画・構成に携わり、プロデュースしました。設計士がビルを建てるのと同じです〉
〈私の解体方法はオリジナルです。魚料理の本を読んで応用し、つくだ煮を作る要領でやりました〉

 平成23年12月、最高裁で2人の刑が確定した。緒方は無期懲役。そして松永には、6人の殺害と1名の傷害致死で死刑判決が下っている。

 前掲書では、豊田氏に宛て、獄中の緒方が綴った書簡が紹介されている。

〈もし輪廻(りんね)転生があるのなら、最低のところから再びやり直そう!
 未知の世界ですから保証はないのだけれど、贖罪の機会はきっと与えてもらえると信じることにしました。
 永い永い時間を経て、いつか、いつの世かで這(は)い上がり、今の私より少しはマシな人間になれることを希(ねが)っています〉

デイリー新潮編集部