朝日新聞、CIAも見誤った「田中角栄」という政治家 “vs.エスタブリッシュメント”の確執

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農民自体なんだな

 当時のCIAや国務省の文書を読むと、彼らは日本の政界や財界中枢からの情報を基に、田中の政治生命を危ぶんでいたようだ。ところが予想に反して、その後も彼は派閥を膨らませ、脳梗塞で倒れるまで政界のキングメーカーとして君臨した。なぜ、朝日新聞同様、見通しを誤ったのか。

 この問いには、かつて田中総理と交流があった右翼の黒幕で国際的フィクサーの田中清玄が答えてくれるような気がする。

「東京タイガー」の異名で中東や欧州の有力者と太いパイプを持ち、石油権益獲得など田中の資源外交を支援した清玄は、あるインタビューで角栄人気をこう評していた。

「あの人は、あらゆる意味で農民自体なんだな。おれはあれだけデモス(民衆)の世界に入り切れない。おれなんか少しエリートすぎる、誇りが高すぎるんだ。これは悪い点だな」

「都会の感覚で農民、農村を見ようとするから間違うのよ。ニューヨークの感覚でイランを見ると、それじゃイランの問題の本質がわからん。もしくはモスクワの感覚でアフガンを見るからロシアは負けるのよ。東京の感覚で農民を見ても、農民がなんで田中さんをサポートするかわからんよ」(「月刊プレイボーイ」1981年3月号)

「今太閤」と称賛された人気の裏では田中への蔑みと尊敬、嫌悪感と思慕、こうした対立する剥き出しの感情が渦巻いていた。彼を“成り上がり”と見下した保守本流と、炎天下で汗も拭わずに墓前に手を合わせる老人たち、それはそのまま戦後の日本人の姿でもあった。

 田中が亡くなってから今年で25年、西山町に眠る彼の元には今も多くの人々が足を運んでいる。

(文中敬称略)

徳本栄一郎(とくもと・えいいちろう)
英国ロイター通信特派員を経て、ジャーナリストとして活躍。国際政治・経済を主なテーマに取材活動を続けている。ノンフィクションの著書に『角栄失脚 歪められた真実』(光文社)、『1945 日本占領』(新潮社)、小説に『臨界』(新潮社)等がある。

週刊新潮 2018年9月13日号掲載

特別読物「米英は『田中角栄』をどう見たか 生誕100年 機密文書が明かす『エスタブリッシュメントvs.成り上がり』の死闘――徳本栄一郎(ジャーナリスト)」より

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