トッピング教祖「オウム麻原」の世界没落妄想 ドイツ第三帝国と酷似

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サイコキラーの事件ファイル オウム真理教「麻原彰晃」――小田晋(4/5)

 オウム真理教、そして教祖・麻原彰晃元死刑囚は、数々の“トンデモ”を唱えたことで知られる。それは精神科医である小田晋氏(故人)に言わせれば「トッピング教祖の『世界没落妄想』」。麻原元死刑囚の宗教ビジネスに斬り込む。(※以下の記事はFOCUS 1999年6月2日号掲載時のもの)

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――「空気よりも軽い金属の開発」「水中都市の建設」「ブラックホールの発生計画」……。ハルマゲドンを予言したオウム真理教・麻原彰晃教祖の指令は、日増しにエスカレートしていったという。正気を疑う要求ばかりだが、理科系大学卒のエリート信者たちは、これに唯々諾々と従ったのだ。やがて、教祖の妄想は歯止めを失い、教団は“救済”という名のファシズムに到達した。麻原の世界没落観と空想虚言について。

 今でもオウムが盛んに唱えている「ハルマゲドン」や「人類滅亡思想」というものは、「世界没落感」と呼ばれる妄想として現われることが多いのです。これは覚醒剤中毒患者や精神分裂病の初期患者に見られる症状で、妄想気分を持つ患者が世界没落体験をすることはしばしばある。私は、もし人類が精神分裂病にならない存在だったら、啓示宗教は起こらなかったのではないかと考えているくらいなんです。

 そのため、「アメリカ軍が毒ガスを撒いている」というオウムの主張を聞いたときは、麻原教祖が精神分裂病か覚醒剤中毒者で、周囲は彼に巻き込まれているのではないかと思っておりました。ところが、その後、仔細に検討してみると、どうも違うのです。それは、精神分裂病患者にしては、麻原教祖の現実的適応能力が高すぎて、あまりにも世渡りが上手いと感じたせいなのです。

 例えば、オウム真理教の成り立ちを考えてみても、これは、教祖の宗教ショッピングによって作り出された宗教です。彼がオウムを始める前に、阿含宗やGLAなど幾つかの宗教を渡り歩いていたことは、有名な話なので、ご記憶の方も多いでしょう。もちろん、釈迦の例もありますし、宗教家が、既成宗教に飽きたらず、悟りを得るまで、何度も宗教遍歴を重ねるケースはよくあります。逮捕されたオウム真理教の幹部信者にも、そういう人が多いのですが、麻原教祖の場合は、むしろ、宗教を純粋にビジネスと考えて、そのノウハウを勉強する目的だったように思えるのです。

 どういうことかと申しますと、伊丹十三さんの「タンポポ」という映画がありましたでしょう。ヒロインの宮本信子さんは、自分のラーメン屋をグレードアップするために、スープのうまいラーメン屋とか、麺の打ち方のうまいラーメン屋から秘伝を盗み、おいしいラーメンを作れるようになりました。これと同じように、麻原教祖は、宗教商売のノウハウを盗むためにあちこちに入信し、そこで、前例がないようなトッピングを考えついたのです。麺は阿含宗、スープは真如苑と来て、最後にトッピングしたのがチベット密教。これこそ、宗教をビジネスと割り切っていたからこそできたことで、それゆえ、信者に全財産を寄付させる「出家制度」を採用したのかもしれません。

 むろん、オウムが成功した理由には、旧ソ連や東欧の崩壊という時代的背景も挙げることが出来ます。「ハルマゲドン的な階級闘争と資本主義の終焉」を唱えていた共産主義の価値観が崩れ、世の中をひっくり返そうと考えたり、分裂病すれすれの夢想家だったりする若者たちの拠り所は、「共産教」の代替物となったオウムのような新興宗教だったわけです。

 が、いずれにせよ、麻原教祖は時代の流れを読み、極めて現実的な手法で信者を獲得していったと言えます。そのため、当初、彼を精神分裂病か薬物中毒者と疑っていた精神科医たちも、今では、空想虚言者だろうという見方に変わってきたのです.

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