夢はモノクロか?――なんでも録音録画の時代を憂う(中川淳一郎)
どうでもいい議論で様々な人が自説を展開する件があります。それの一つが「夢には色があるか? モノクロか?」です。私は45歳を目前とし、ほぼ毎日、見た夢を覚えていられるようになってしまいました。それで起きたらすぐに記録するようにしているのですが、自分なりの結論を言うと「夢には色がある」となります。
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フィリピンのエメラルド・グリーンの海で泳ぐ夢も見たし、バスケットボール界の神様たるマイケル・ジョーダンのチームメイトになった夢を見たところ、彼が所属するシカゴ・ブルズのユニフォームが白と赤になっており、しかもジョーダンのような黒人選手と別の白人選手の肌の色もはっきり見えた。
さらには、「機動戦士ガンダム」に登場するロボット(モビルスーツ)を操るゲームをやった日の夜に見た夢は、「リアルガンダム操縦」的な夢でした。そこになぜか敵役として漫画「キン肉マン」に登場する「悪魔騎士」の「サンシャイン」が出てきたのですが、漫画と同様金色の姿でした。ビームライフルを撃ち、金色のサンシャインをピンク色の光で倒す瞬間、彼の背後にはオレンジの夕陽も見えていました。
ただ、「夢のレコーダー」といったものがない限りは「夢には色がある」は証明できない話なのでこれ以上力説するのは難しい。「私の夢は完全にモノクロだった」と言う人と同じぐらいの説得力しかもたないのです。
そんな中、「イヤな時代になったなァ……」と思うのが、自分の身を守るためには記録が必要になったことです。日大アメフト部の“質タックル”でも動画が残っていたから明確な証拠になりました。運転中に煽られて事故に至ったり、タクシーの運転手が酔っ払った乗客から暴力を振るわれた場合に決め手となるのはドライブレコーダーですし、パワハラなどを証明する際に必要なのは隠し持っていたICレコーダーの音声データです。
これは被害者の側からすれば自己防衛のための手段ということになるものの、とにかく「外に出れば何かヤバいことがあるかもしれないから、自衛手段を常に講じなくてはならない」という不穏な時代が来たことも同様に意味します。
すると、本来は楽しいはずの宴会なのに、場を楽しむというより、とにかくセクハラの証拠を取ることが心の大部分を占めるようになる。「動画があって助かった」「録音しておいて良かった」というのは被害者救済においては重要なものの、この風潮がさらに蔓延すると、それこそ自宅を出た瞬間からメガネに内蔵しているカメラで自分の見ている風景をすべて録画し、スマホは常時、録音しているようになることでしょう。
こうした時代もあと何年かのうちに到来すると思います。しかし、そこまで他人を信頼しないことが当たり前になってしまうのか……という絶望感も同時に抱きます。「なんだか分からないけど酔っ払って楽しかったね!」的感想はもはや許されず、「オレに対してお前はあそこで『バカ』と言った。これは立派な名誉毀損である。オレは動画も音源も持っている。それでは法廷でお会いしましょう」みたいなことになるんじゃね?なんて未来予想図も成立するのです。