お笑い芸人「サンキュータツオ」が語る「私が『広辞苑』の項目執筆を依頼されたワケ」

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国語辞典を2冊買う必要性

 こうしてタツオさんは、『広辞苑』第7版の新規執筆や見直しを含めて、約70語に携わった。これまでは外部から『広辞苑』を見ていたが、内部に関与する機会も得た。改めて『広辞苑』をどう評価しているのか、質問してみた。

「『広辞苑』は癖の強い辞書です。長らく常用漢字を表示せず、形容動詞も認めていませんでした。そんな辞書なのに多くの人が、無根拠に信用しています。辞書といえば『広辞苑』であり、語釈の引用は『広辞苑』と相場が決まっています。僕にとっては“正しい日本語”幻想に支えられた、最も“父性”を感じる辞書ですね。つまり、規範やルールを体現している。そうした問題点は、自著で批判というか、少し距離を置く姿勢を示しましたが、それは今でも変わっていません」

 今回、改定された第7版の『広辞苑』では、「台湾」、「LGBT」、「しまなみ海道」、「坊守」の4項目の記述に問題があるとの指摘が報じられた。代表例は産経新聞の「『広辞苑』に相次ぐミス指摘 “国民的辞書”揺らぐ信頼」(1月26日電子版)だろう。

 だが、『広辞苑』編集部は「LGBT」と「しまなみ海道」については誤りを認めたものの、「台湾」と「坊守」については修正の必要はないとした。タツオさんも「『広辞苑』への本質的な批判とは全く関係ない」と一蹴し、「必要以上に騒ぎすぎている」と冷静な受け止めを呼びかける。

「極端な言い方をすると、『広辞苑』編集部は、毎日、『間違っています』という指摘に対応しています。ありとあらゆる関係者がチェックして、25万語のうちの2語に間違いが見つかったわけです。むしろ信頼度は極めて高いと見るべきでしょう。他の辞書でも必ずミスはあります。でも、誰も注目しないし、見つかっても報道されません。『広辞苑』は常にこうした厳しい視線にさらされ、鍛えられている辞書だということは、皆さんに理解してほしいと思います」

 言葉の意味をネットで調べる人すら少数派だ。国語辞典を購入することに躊躇を感じる人もいるだろう。有料でも正確な情報の価値がどれだけ高いか再認識されるべきだが、「家に1冊、『広辞苑』があればOK」というのも、逆に危険な考えだという。タツオさんは「辞書は異なる出版社のものを2冊買ってほしい」と呼びかける。

「言葉の世界に“正しさ”は存在しない以上、セカンドオピニオンが必要です。新聞でもテレビでも同じでしょう。2紙を読み、2局を見る人は、多様なニュースや番組に触れ、事象を相対化できます。1紙や1局では、比較の対象を持ちません。それが思考停止の始まりです。辞書1冊も同じです。『広辞苑』にミスが少ないのは事実でも、2冊目の辞書は絶対に必要です。僕は自著で『美しい』の語義が、辞書によってどれだけ異なるか紹介しました。2冊の辞書に目を通すことで情報の正確性が高まりますし、何よりもそれは非常に楽しいことなんです」

 辞書が最も売れるのは3月と4月だという。書店でのフェアも盛んになる。もう1冊の国語辞典を求めて、足を運んでみてはどうだろうか。

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週刊新潮WEB取材班

2018年2月11日掲載

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