お笑い芸人「サンキュータツオ」が語る「私が『広辞苑』の項目執筆を依頼されたワケ」

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遂に『広辞苑』編集部から依頼

 こうしてタツオさんは、満を持して13年に単行本『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』を、角川書店(現在はKADOKAWA)グループの角川学芸出版から上梓する。当然ながら“辞書業界”でも大きな話題となり、タツオさんは多数の辞書編集者の知己を得ることになった。

 そして15年、面識のあった『広辞苑』の編集者から「サブカルチャーの項目を担当してもらえませんか?」とのメールが届く。『日本語 文章・文体・表現辞典』の項目を依頼された時はプレッシャーで押しつぶされたが、今回は「やろう」と素直に決心したという。

「僕よりサブカルチャーに詳しい方は、ごまんといます。僕より辞典に精通している方も同じです。でも、『サブカルチャーと辞典の両方となると、そんなにはいないはずだ』と冷静に考えて、地に足が着いた自信を持つことができたんです」

 とはいえ、それからが大変だ。編集部から「次の改訂(編集部註:第7版)ではサブカルチャーに関して、どのような言葉を入れるべきですか?」と質問が届く。タツオさんは「横井軍平」や「ボーイズ・ラブ」などを提案する。また従来から存在する「田河水泡」(1899~1989/漫画家)の肩書に「落語家」を加えるよう修正の見解を伝える。これを受けて編集部が「これとこれの執筆をお願いします」と依頼してくる。

「なるべく広辞苑らしい文体で、コンパクトに収まるように書いたつもりです。とはいえ、専門家という人間は『あの要素も入れなきゃ』とか『これはもっと厳密に書かなきゃ』と情熱的に、細かい点にこだわるんです(笑)それを全て従ったら、今の広辞苑の厚さでも収まらないでしょう。私たちが書いた原稿は、編集部が受け取って、それでおしまいです。最終的にどのような形になったのかは、実際に発売された広辞苑を見なければ分からないというシステムになっています」

 この方法は、辞典編纂の世界では当たり前かもしれないが、出版界全体では珍しいと言えるだろう。普通は「著者校」と言って、筆者は印刷前に様々な修正や加筆を行うことができる。もちろん全てが反映されない可能性があるのは辞典と同じだが、著者校そのものが存在しないというのは出版物では珍しい。

 例えばタツオさんは「アニメソング」を「アニメーション番組の冒頭や劇中、エンディングで流れる歌。アニソン」と執筆したが、実際では「エンディング」が削られており「冒頭や劇中などで流れる歌」となっている。この修正に筆者たるタツオさんは全くタッチしていない。

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