連続企業爆破犯、童話作家へ転身 遺族からは「もはや呆れるしか」

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 命の尊さを描く女に、その資格はあるのだろうか。テロという言葉がまだ浸透していない時代、東京では人々が見えない爆弾魔に脅えていた。1970年代、名立たる企業を襲った連続企業爆破事件。その犯行にかかわり牢に繋がれた浴田(えきた)由紀子(66)は、この春に出所後、童話作家へ転身し本まで上梓していたのだ。

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 オウム真理教の地下鉄サリン事件が起きるまで、首都・東京を震撼させた最大の無差別テロ事件は、極左暴力集団・東アジア反日武装戦線による「連続企業爆破事件」をおいて他にない。

 始まりは、74年8月の三菱重工爆破事件だ。犯行グループは、時限爆弾を仕掛けて丸の内のオフィス街を血の海に変える。その後、三井物産、大成建設、鹿島建設、間組など大手企業を標的に、75年5月までの間に死者8名、重軽傷者417名の被害者を出した。

 後日、実行犯の一人として懲役20年の実刑を下されたのが、今年3月23日に東京拘置所を出所した浴田だ。かつて“革命戦士”を名乗った彼女は、娑婆に出た直後に「えきたゆきこ」の筆名で童話『マコの宝物』(現代企画室刊)を出版。著者紹介では、〈74年、東アジア反日武装戦線大地の牙に参加。75年、逮捕〉とその経歴を明かしてはいるが、事件やその被害など具体的な内容には触れずじまい。本文はもとよりあとがきに至るまで、謝罪の言葉は一切ないのである。

 肝心のストーリーは、自らの故郷・山口の方言を使って子供たちの日常を舞台に、様々な大人たちとの交流を綴るもの。だが、読み進めると、どうにも気になる記述が散見される。

 例えば、村に住む老婆が過去の戦争で兄を亡くし、大勢の人たちが死んだと子供たちに語りかける場面だ。

〈「戦争はいけませんよ。(中略)町場じゃあいっぱいの家が焼かれて、子どもも、女の人も、年よりも、弾(たま)に当たったり、火に追われて焼け死んだりしてしもうてじゃった。みーんな帰ってこん。(中略)人と争うちゃあいけん。(中略)人間同士、話し合うて、なんでも分け合うて、仲ように暮らしてが一番かしこい」〉

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