映画になった老舗パン屋「ペリカン」 食パン・ロールパンのみで勝負

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 地下鉄・田原町(たわらまち)駅から徒歩3分。東京・浅草に知る人ぞ知るパン屋の老舗がある。

 その名も「ペリカン」。2代目の徒名(あだな)からつけられた。

 食パンとロールパン、たった2種類で勝負しているという拘りが風変り。午後4時に店を覗いてみると、店内は人だかりがしている。

 食パン1斤が380円(税込)と安くはないが、これが1日に500本も売れるという。ロールパン(中ロール)は5個で460円(税込)。店内の棚に整然と並べられた景色が美しい。

 3斤の食パンをぶら下げて店を出てきた女性が相好を崩す。

「家族4人、2日でペロリと食べちゃいます。とにかく、食べ飽きないホッとする美味しさですね」

 今、パン屋が流行だと言われる。たしかにお洒落なベーカリーは全国津々浦々に増えた。どこの店でもバラエティ豊かな品数を競う御時世に、なぜ、ペリカンは2種類なのか?

「もし、自分に10の力があるのなら、それで100のものを作るより、1のものを作りたい。そうやって、集約させることで、十分に力を出せると思うのです」(4代目店主、渡辺陸さん)

 この禁欲的な信条は、昭和17年の創業当時からのものだという。

「最初は、ジャムパンやクリームパンなどの商品も作っていましたが、他の店と競合せずに可能な商売のやり方を考えた末に菓子パンはやめて食パン、ロールパンだけに絞ったのです」(同)

 ストイックなパン職人の姿勢に“ドラマ性”を直感した映画人が、この店を舞台にドキュメンタリー映画「74歳のペリカンはパンを売る。」を製作した。

「テレビ出演はあっても映画は初めて。当惑しましたが、製作者の方々の真摯な態度とひたむきさ、情熱に共感し、今回の運びになりました」(同)

 公開は10月、渋谷ユーロスペースで。

週刊新潮 2017年8月3日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。