「ふるさと納税」が待機児童を増やす 世田谷区の税収減が危ない

国内 社会 新潮45 2017年8月号掲載

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 A5ランクの黒毛和牛に活とらふぐのチリ鍋セット。豪華「返礼品」でブームに沸く「ふるさと納税」だが、そのせいで思わぬところに皺寄せがいくという。ノンフィクションライターの上條昌史氏が、「ふるさと納税」のもたらす「弊害」を徹底取材した。(以下「新潮45」8月号より抜粋)

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 ふるさと納税が栄えることで、待機児童が増える――。風が吹けば桶屋が儲かる、ではないが、いま、そんな奇妙な事態が現実に起きようとしているのだ。

 首都圏の共働き世帯が多く居住し、およそ90万人の住民を擁する東京都世田谷区。区庁舎の一室で、保坂展人区長はこう切り出した。

「世田谷区は、平成28年度のふるさと納税による住民税控除額で、16億5000万円の税収減に見舞われました。平成29年度は、前年度の2倍に当たる30億6990万円の税収減になることが見込まれています。16億5000万円という金額は、園庭付き認可保育園5カ所分の整備費用に当たり、30億円となれば古くなった学校1校を改築する費用に相当します。ふるさと納税による税収減は、もはや限度を超えた水準に達しており、非常に強い危機感を抱いています」

 このところ爆発的な広がりを見せているふるさと納税によって、多くの自治体が「特需」に沸いてきたのはご承知の通りだ。

 だが、どこかの税収が増えるということは、他のどこかが税収減の煽りを喰うことに他ならない。実際、世田谷区をはじめとする都市部の自治体は巨額の税収減に頭を悩ませており、その結果、各自治体が必死に取り組んできた「待機児童対策」にも暗い影を落としかねない状況なのである。

 世田谷区ではこの1年間で人口が約1万人増加。未就学児童も増え続け、保育施設や子育て支援の充実・拡大は危急の課題となっている。待機児童数が「全国ワースト1」とされる世田谷区では、ここ数年、保育事業だけで実に年間450億円を投入してきた。そうすることで保育施設を拡充し、3歳以上の待機児童をようやくゼロにした。しかし、0〜2歳児を受け入れる保育施設はまだ十分とは言えない。

最大で200億円の税収減

 保坂区長は、こう続ける。

「恐れているのは、住民税の減収が今後も倍々で伸びていくことです。仮に世田谷区の全納税者が、限度額までふるさと納税を利用した場合、税収減は最大で200億円に達します。現在のペースで考えると、その半分に当たる100億円の税収減は十分に視野に入って来るのです」

 100億円はリーマンショック時の税減収に相当する。当時は学校建設を含め、新規事業を軒並みストップせざるを得なかった。そうなれば行政は立ち行かなくなり、200億に達すると「住民サービスの崩壊」も想定されるという。

 そもそも、待機児童対策は国を挙げて進められている施策である。安倍内閣は平成25年4月から「待機児童解消加速化プラン」に基づいて取り組みを進め、保育の受け皿については、政権交代前と比べて2・5倍を超える規模になっている、と実績をアピールする。今年5月には、安倍首相自らが「今度こそ、待機児童問題に終止符を打つ。来年度から子育て安心プランに取り組みます」と、日本経済団体連合会の創立70周年記念パーティーでスピーチ。待機児童の解消に必要な約22万人分の予算を2年間で確保し、今後3年間で全国の待機児童を解消する、と意気込んで見せた。

 だが、世田谷区の現状を見る限り、その見通しはあまりにも楽観的に映る。

 待機児童対策もふるさと納税も、国が積極的に後押しする施策である。その2つの施策が互いに潰し合う捩じれた構造が、いま、現場レベルで生じているのだ。

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