【東松山16歳殺害】殺害の理由は“電話を無視したから” 犯人の元彼女が見ていた一部始終

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 8月23日深夜、埼玉県東松山市にある「五領町近隣公園」――。2人の少年と1人の少女が、いつになく深刻そうな表情で会話を交わしていた。

 市内を流れる都幾(とき)川の河川敷で井上翼くん(16)の遺体が発見されたのは、その日の午前8時頃。翼くんを殺害したとの容疑で遊び仲間(「関係図」参照)の少年A(16)、少年B(17)、少年C(15)、少年D(14)、少年E(15)が相次いで逮捕されたのは25日から26日にかけてのことだったが、先の五領町近隣公園にいたのは、出頭直前の少年A。もう1人の少年はAが所属しているカラーギャング「パズル」のリーダー、少女はAの元彼女であった。

「Aから“話がある”と電話が来て、リーダーも含めて話をすることになった」

 と話すAの元彼女によれば、彼は涙を流しながら、河川敷で何が起こったのかについて告白したという。

 その内容はこうだ。

〈最初は俺、B、Cの3人で遊んでいた。Bが「タイマンだ」と言って翼を呼び出した。そこで、Cがやり過ぎてしまって、翼は白目をむいて、痙攣を起こした。Bは「家からタバコと携帯を持ってきてくれ」と言ってDとEを呼びだし、着いたら、「お前らも見たから共犯だ。1発ずつやれ」と命令した。翼は死にそうになっていて、Bは俺に向かって「後始末をしろ」と言った。だから、翼の顔を川の水につけた。息ができないように。その後、怖くなって、皆で逃げたんだ〉

 Aの元彼女が言う。

「私はAと会う前、Dとも電話で話していて、Dも同じような内容の話をしていた。Aとの話が終わった後、Aのお父さんに公園に来てもらった。お父さんは私に“Aがこんなことをして申し訳ない”と謝っていた」

■“本当のことを話したら…”

 Aが父親に連れられて出頭したのは翌24日午前1時45分、逮捕されたのは25日である。Aは当初、捜査員に対して「(翼くんを)1人で殺害した」と嘘をついていたが、それには理由がある。

「AはBから脅されている、と言っていた。“本当のことを話したら、お前の家族がどうなるか、分かってるんだろうな”と」

 Aの元彼女はそう語る。

「Aは“いずれにせよ、俺が手を下したことには間違いない”と言って、自分1人で責任を取ろうとしていた。私とリーダーは“正直に話したほうがいい”とAに言っていた。リーダーは、こういうケースで捕まったら出てくるのに何年くらいかかる、といったことをAに教えていた」

 元彼女とリーダーの説得にもかかわらず、当初、警察で嘘の供述をしたのだからBの脅しがよほど恐ろしかったのだろう。が、警察相手にいつまでも嘘が通用するはずもなく、Aはあっけなく“落ちた”。取調べ中にAが名前を明かした4人が一斉に逮捕されたのは、26日だった。

■泡を吹いてもがいていた

献花がたえない遺体発見現場

 捜査関係者は、

「5人の犯行状況としては、まず皆で翼くんをボコボコにして、その後、Aが翼くんの顔を川につける、という流れです」

 と言うから、出頭前、Aは「パズル」のリーダーと元彼女に概ね正確な内容を告白していたのであろう。また、翼くんの顔を川につける場面については、A以外の複数の少年も次のように詳細に供述している。

〈最初、翼はブクブクと泡を吹いてもがいていたけど、そのうちに体が痙攣して、それでもAが翼の顔を川につけたままにしていたら、動かなくなった〉

「それで翼くんは溺死したと見られますが、Cはその一部始終を携帯で撮影していました。携帯には、翼くんが川で泳がされている映像も入っていました」(先の捜査関係者)

 先に触れた通り、Aは24日に出頭したわけだが、実はそれより前に警察はCを任意で事情聴取していた。事件後、Cから「暴行した相手が死んだ」とLINEで伝えられた知人が警察に通報したためだ。

「Cは当初、“俺は動画を撮っていただけ”と言っていたのですが、しつこく追及すると翼くんの脇腹を何度も殴ったことを認めた。さらに、“殺したのは俺じゃない。Aだ”とAに責任をなすり付けるようなことも言っていた。Cはこの日は一旦、帰されたのですが、その後、ツイッターに“俺が犯人って言っている奴だれ? キモい”と書き込み、行方をくらましたのです」(同)

 Aの元彼女の自宅に警察官がやってきたのは23日午前11時頃だった。

「AとCを探している」

 警察官はそう言い、東松山署への同行を求められた、と彼女は言う。

「最初は“また何か悪さでもしたんだろうな”くらいに思っていたのですが、いろいろと聞かれて、なかなか帰してくれない。夕方になって“本当は、殺人事件があったんだ。正直に話してくれ”と言われたけれど、本当に何も知らないから困ってしまった。結局、夜10時頃になって、やっと解放されました」

 ほどなくして、彼女の元にAから電話が入る。そして、五領町近隣公園で「パズル」のリーダーと共に、Aの「犯行告白」を聞くに至るのだ。

■事件の“伏線”

 この「パズル」の「次期リーダー」になることが決まっていたのがBである。彼が翼くんと知り合ったのは今年の5月頃だったといい、

「Bは翼をパズルに入れようとしていた。今のリーダーの代が引退すると、メンバーが減ってしまうので翼を入れて人数を増やしたかったんじゃないかな」(パズルの現役メンバー)

 翼くんの自宅は、Bらが住んでいる辺りから車で30分ほどの距離の吉見町にあり、両親、兄、双子の弟の5人家族だ。翼くんは吉見中から定時制高校に進むも、昨年11月に中退し、

「今年7月半ば頃に家出。コンビニのバイトをクビになったことで、親から出て行けみたいなことを言われた、と本人は話していた」(翼くんの同級生)

 翼くんが殺されたのは8月22日の午前中と見られているが、事件は唐突に発生したのではなく、いくつかの伏線があった。彼がBらと密接に付き合うようになったのは8月17日で、

「その日、翼は海に行こうとして、Bのところにバイクを借りに行った。翼は5000円で借りようとしていたけど、Bは彼の財布に入っていた1万6000円を持っていった。が、雨が降ってきたので海に行くのは止め、B、A、Cらとバイクで走ったりしていた」

 とは、翼くんの幼馴染。

「18日にはトラブルがあった。翼が、あることでついていた嘘がばれてしまい、ラーメン屋の前でBにぶん殴られた。19日にはBに根性焼きをやられた。Bに“根性見せろ”と言われ、左腕に3回、タバコの火が消えるまでやられていた。翼は17日とかは楽しそうだったのに、19日には口数が少なくなっていて、様子が変だった」

 嘘をついたり、メールや電話を無視したから殺した――。逮捕後、Aはそう供述したが、事件直前、翼くんがBからの連絡を無視するのを見ていた人物がいる。Aの元彼女だ。

「20日の夜、私はCの家に泊まったんだけど、そこには私とCの他に翼、E、Eの彼女もいた。20日の深夜、翼はBからの連絡を“まただよー”と言って無視していた。翼はBのパシリをやらされ、断ると殴られていたので、嫌気がさしていたのだと思う」

 と、彼女は明かす。

「無視しているのがBにばれたのは、その場にいたCがBにチクったからでしょう。21日の夜、翼は私をバイクで駅まで送ってくれた。日付が変わった22日の0時2分、翼から“好きになっちゃいました”とLINEが来たけどそれは軽い感じで流し、最後に翼からLINEが来たのは午前2時3分。“わかったばいばい”と書いてあった」

 事件現場近くのコンビニで翼くんの姿が目撃されたのは22日午前2時35分頃。そこにはCらしき金髪の人物が同行していたといい、その後、2人はA、Bと合流したと見られる。そして翼くんは、荒れ狂う暴力の渦に呑み込まれたのである。その先の河川敷で。

特集「パシリ16歳少年を殺害した東松山『カラーギャング』の掟」より

週刊新潮 2016年9月8日号掲載

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