年間2万件超のストーカー被害 どう対応すべきか─小早川明子(NPO法人ヒューマニティ) 「ストーカー」は何を考えているか(3)

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 ストーカーによる凶悪な犯罪が連日報道されています。しかし殺人事件ともなればテレビや新聞などで大きく取り上げられますが、傷害や脅迫などではあまり大きく取り上げられることはありません。

 2013年に全国の警察が確認できたストーカー事案は2万1089件。うち刑法やストーカー規制法で検挙されたのは1574件。殺人(未遂含む)は15件にすぎず、ほとんどのストーカーは殺人までは起こしません。報道で騒がれるのは殺人事件だけなので、それを見た人はストーキングと殺人の距離を近いものと考えます。その結果自分はストーキングとは無縁で、ストーカーは異常者だと考えます。

 加害者の多くが警察に警告されて初めて自分がストーカーであると気づきます。ストーカーの多くが自分の行動が正当なものだと考えているため、反省はせず「犯罪者扱いされた」「なんで私がストーカーなんだ」と逆に被害者への恨みを募らせてしまう事例も多くあります。

 NHKスペシャル「ストーカー 殺意の深層~悲劇を防ぐために~」でも取り上げられ話題となった、全国からストーカー被害の相談を受けているNPO法人ヒューマニティ(東京都)の小早川明子理事長は、近著『「ストーカー」は何を考えているか』(新潮新書)のなかで、被害者も自分では被害にあっていると気づいていない場合がある、と解説しています。

 元交際相手からのストーキングの場合、多くの被害者が交際中から日常的に精神的・肉体的暴力を受けています。長くそのような環境に置かれると、自分が被害者であるという自覚も持てなくなります。同法人に勇気を出して相談にくる被害者も当初は「自分も悪い……」という人が多く、カウンセリングは自分には自分を守る権利があるという当たり前の意識をもたせることからスタートする、といいます。

■ストーカーの心理レベルから判断する

 それでは交際相手や元交際相手からストーキングを受けた場合、どのような対応をとればよいのでしょう。小早川理事長は同書のなかで、加害者の心理レベルを判断し、対応を図る必要があると解説しています。

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 加害者の内面の危険度を見る時、私は、【1】リスク(risk=可能性)→【2】デインジャー(danger=危険性)→【3】ポイズン(poison=有毒性)という三つの段階を設定しています(上記の図を参照)。

 【1】の段階では被害者の対応次第でよい方向に向かいますが、【2】の段階では危険性が雪だるま式にふくれあがり、警察の警告、カウンセラーや弁護士が間にはいるなど第三者による介入が必要です。そして【3】は、加害者の存在自体が毒、加害者はストーキング病と見てよく、最悪、殺人事件も起きかねないもっとも危険な段階です。一刻も早く自分が逃げるか、相手を排除するか、少なくとも加害者の行動を見張らなくてはなりません。

 何も対策を講じなければ、危険度は【1】→【2】→【3】と進むだけで、いくら神頼みをしても逆方向には行かないのです。

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■どう対応すべきか?

【1】リスクの段階:「やり直したい」と言われた場合。
対応:貸し借りは清算した上で、はっきり「別れたい」と言う。二人きりにならない場所で話をする。別れ話をLINEなどで他人には知らせない。

【2】デインジャーの段階:「責任を取れ」「誠意を見せろ」「消えてほしい」「死んでやる」など切迫してきた場合。待ち伏せや名誉棄損などもこの段階。
対応:個人で対応するのはもう無理。カウンセラーや弁護士、警察に相談する。身近で大切な人に報告。警察や弁護士に介入してもらうためにこれまでの記録の用意をする。

【3】ポイズンの段階:「呪ってやる」「殺してやる」「火をつける」「人生を破壊する」など脅迫になってきた場合。住居侵入、職場への嫌がらせ、追いかけ、復讐行為の依頼など。
対応:警察力による対応が必要。証拠を採集して直ちに被害届を出す。ストーカー規制法や脅迫罪で告訴し、逮捕してもらう。

 デインジャーの段階に進んだ場合、身近な人に相談し解決を図るのは得策とは言えません。ストーカーはほとんどの人にとって初めての経験で、介入した人の生活や人生にも影響を及ぼします。心配性の人や血気盛んな人、新しい恋人などに対応を依頼するのは絶対にやめましょう。

 ストーカーには依存症や精神病、人格障害や発達障害など、さまざまな病態が存在します。攻撃性の高い加害者は物理的な騒ぎも起こします。困った事態に陥ってしまったら躊躇せずにプロ(カウンセラーや警察や弁護士)に相談しましょう。

デイリー新潮編集部

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