生理は止まる! 骨密度は老人並み!「女性アスリート外来」の現状 美談ですまない「女性アスリート」過酷の日々(4)

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5割は疲労骨折

 今年8月、日本産科婦人科学会は国立スポーツ科学センターと共同で行った女性アスリートの健康調査結果を公表。女子大生を中心とする1616名の選手を対象に、現状が報告された。

 それによれば、月経がなかったアスリートは、全国大会、地方大会出場レベルでも、一般の女子大生に比べ約3倍にのぼる。中でも際立っているのは、体重制限が厳しい、中・長距離や体操・新体操の選手。一般の女子大生に比べ、実に10倍近く、2割強が無月経となっているのだ。「疲労骨折」の経験も、中・長距離選手では5割、体操・新体操選手でも3割を超えている。

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 昨年10月、順天堂大学に「女性アスリート外来」が開設された。同大医学部産婦人科の北出真理准教授によると、陸上競技はじめ新体操など審美系競技の選手に「生理が来ない」という主訴が多く、受診するのは中高生や大学生、また実業団選手など様々である。

「ハードな練習をしていると、食事をしっかりとっても摂取エネルギーが消費エネルギーに追いつかず、体脂肪の減少によりホルモンバランスが崩れて排卵が止まる事も少なくありません。月経をつかさどる脳の視床下部はストレスの影響を受けやすく、悩み事だけでも月経が止まる場合がある。選手は肉体的負荷だけでなく、試合の重圧やコーチ・同僚との人間関係等でストレスフルになりがちです」

 必要以上に体重が減ったり、過度なストレスがかかると女性ホルモンが低下。そのまま放置すれば骨量が減少して、若くても骨がスカスカになる骨粗鬆症(こつそしょうしょう)となり、疲労骨折のリスクが高まる。

 一方、女性アスリートで月経前の不調(PMS)や生理痛などに悩む人には、低用量ピルの服用を勧める。

「月経前に生じる下腹痛や倦怠感、イライラなどの症状も抑えられ、パフォーマンスが上がります。月経周期も移動できるので、試合日がベストコンディションになるようコントロールする事も可能。子宮内膜症の予防としても使われます」

 また、スポーツを始める年齢が若年化していることに伴う問題も見えてきた。今年4月、豊橋市の小石マタニティクリニックに開設された「思春期スポーツ外来」。診療に携わる産婦人科の宮本由記医師はこう語る。

「幼少からハードな運動をすると初経が遅れてしまう。女性には身長が最も伸びる成長ピークがあり、1年後に初経を迎えます。その後、骨量が増えて骨が強くなるが、本来は身長が伸びる時期にダイエットなど体重制限をすると、成長ホルモンが不足して月経が始まらず、骨も強くならない。そこで運動量が増すと、疲労骨折を起こしやすくなるのです。現場の指導者や親たちの中ではいまだに“無月経でも記録が良ければ”という声も聞かれ、選手たちは“太るとタイムが落ちるから”と食べない子もいます」

 疲労骨折のピークは16歳とされるため、宮本医師はまず食生活の改善を促す。

「選手たちには“どこがあなたにとってのゴールなのか?”と聞くのです。ジュニアの全国大会で優勝して終わりなのか、もっとその先まで続けたいのかと。競技を長く続けていくためには、今からしっかり食べて生理が来て、折れない骨を作って体づくりをしてから、プロを目指した方がいいという話をするんです」

 親の教育熱もスポーツ界の若年化に拍車をかける。それが“金の卵”に及ぼす影響も危惧されるところだ。

歌代幸子(うたしろ・ゆきこ)
1964年新潟県生まれ。学習院大学卒業後、女性誌の編集者などを経て独立し、ノンフィクションライターとなる。スポーツ、事件、教育など、さまざまな分野を取材し、記事を執筆している。著書に『私は走る―女子マラソンに賭けた夢』など。

週刊新潮 2015年11月26日雪待月増大号掲載

「特別読物 生理は止まる! 骨密度は老人並み! 美談ですまない『女性アスリート』過酷の日々――歌代幸子(ノンフィクションライター)」より

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