無人島「素っ裸おじさん」のワイルドライフ

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 西表島の西側に位置する「外離(そとばなり)島」に、長崎真砂弓(まさみ)さん(79)が暮らし始めたのは四半世紀も前のことだった。当初は製糖工場などで働いていたが、人間関係が苦手で、やがて無人島暮らしへ。1年の大半を一糸まとわぬ姿で暮らしている。地元では「ナガサキおじい」で通っている彼の、何もないけど自由な暮らし――。

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地元では「ナガサキおじい」で通っている長崎真砂弓さん。昨年7月には『めちゃ×2イケてるッ!』の2時間番組にメイン出演者として登場している

 テレビがやってくるようになったのは10年ほど前からだ。おそらく日本でただ一人のヌーディストというニュースは、お茶の間を盛り上げるには十分だった。情報番組などで紹介されると、次々とテレビクルーが訪れ、ロイター通信までもが取材にやってきた。昨年7月には『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ系)の2時間番組にメイン出演者として登場し、素っ裸のお笑いタレントらと一緒のシーンが全国のゴールデンタイムに流された。

 都会では考えられないような生活に“会ってみたい”という観光客も増えたという。

「おじいのところ? 10年ほど前から年に30~50組ぐらいは案内してきたさ。会いたいと言うお客さんを外離島に連れて行って数時間、滞在してもらって、後で迎えにゆくというパターンかね」(近くの集落・船浮の民宿の主人)

 客の中には女性も少なくない。

「年に何度か“元気かな”と会いに来る娘が何人かおるよ。1人で来た女の子がおじいと一緒にキャンプしたいと言ってきたこともあった。付き合っている彼女だっているらしいさ(笑)。詳しくは言えんがね」(地元の海運関係者)

■おじいを訪ねて

 人嫌いで孤島暮らしを始めたつもりが、いつの間にか、有名になりモテ男になってしまったおじい。ところが、ある日、忽然と外離島からいなくなる。今から1年前のことだ。行方を迫ってみると、外離島から3~4キロ離れたところにある「モクタンの浜」に引っ越していた。

 そこで本人に会うべく、モクタンの浜に船で向かうと、おじいがシャツを羽織って姿を見せる。痩せてはいるが、黒光りする体は野生人そのものだ。そして、自分に会いに来たことが分かるといつもの全裸になる。おじいの住むテントをのぞいてみると中はきちんと整理され、炊事場や食事をするテーブルのような台もあった。

「知り合いが送ってくれたんだ」

 とコシヒカリの新米で炊いたご飯をごちそうしてくれた。まずは、近況を聞いてみる。

「去年の10月末に外離島を出て、それからこっち(モクタンの浜)にいるんだ。だいぶ慣れて来たな。外離島からこっちに来るのは(荷物が多くて)大変だった。でも、船浮の人たちが手伝ってくれたから助かった。いい人たちだよ。ただ、外離島を出たあと、すぐに大きな台風が来て、僕が住んでいたあたりは滅茶苦茶になったらしい。あそこにいたら、たぶん死んでいたよ。人間万事塞翁が馬ってやつだな」

 生活パターンは以前と変わっていない。好きな時間に起きて、まず体操。海の中で腕立て伏せもやる。食事は1日3食のときもあれば5食のときもある。雨が降ったら食事は作れない。

「タケノコが採れる季節はそれを食べる。あとはニガナ(沖縄特産の野菜)かな。外離島ではよく魚を獲って食べていたけど、最近は魚と喧嘩するのは良くないって気持ちになってね。どうしても腹が減っているときに食べるぐらいで、魚を釣るのは止めたんだ。魚は血が出るじゃない。何だか可哀相になってね」

 薬は持っていない。集落よりジャングルのほうが清潔だという。買い物に行くときは雑菌に感染しないよう海水でうがいしてから出かける。トイレはもちろん海で。「大」をするときは自分のほうに流れてこないようコツがあるのだそうだ。

■「若い頃に散々女遊びをしたから……」

 外離島のときもそうだったが、おじいが一番気を付けているのは天候だ。

「NHKラジオで流れる気象通報は必ず聞いている。生活はすべて天気次第だから。台湾の天気が1日後にはこっちの天気になるんだ。でも、去年、NHKの会長がモミイ?(籾井勝人氏)に代わってから、1日3回の“気象通報”が1回だけに減らされてしまって困ってるんだよ」

 秘境で暮らしながらNHKのトップ人事を知っているなど、妙に世間ずれしているところもある。いつも訪問者と話しているからだろうか。

「昨日はデンマーク人が来たな。ロイターのインタビューに答えたから知ったんだと思う。スペイン、ドイツ、台湾、ブラジル……いろんな国の人がやってきたよ。外離島に住んでいた頃よりは少なくなったけどね」

 気になるのは、おじいを訪ねてくる女性だ。

「真っ裸になるという点では女のほうが度胸がある。僕はここで50人ぐらいの女性の裸を見たかな。恋人がいるだろうって? 70歳ぐらいのおばさんでエッセイストをやっている女性のことでしょ。年に2、3回来て一緒にテントに泊まったりするけど、彼女なんてもんじゃない。そういうのを男女の仲だと噂する島の人もいるけど、彼女が怒るよ。若い頃に散々女遊びをしたから、もうオンナの裸を見ても勃たないね」

「特集 日本でただ一人の好事家『ヌーディスト』の受難 『素っ裸おじさん』が西表の無人島を追い出された顛末」

週刊新潮 2015年12月3日号掲載

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