田舎暮らし「したい人」と「来て欲しい人」をマッチングさせる方法──外国人が熱狂するクールな田舎の作り方(2)

ビジネス2018年1月24日掲載

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 飛騨の里山の「なにげない日常」を見せることで、約80カ国から毎年数千人の外国人を呼び込むことに成功した着地型ツアー、SATOYAMA EXPERIENCE。それは、企業経営の手法を地域経営にも当てはめることで可能になった。

 観光業のような「手間暇のかかる」活動には、人の手が絶対的に必要であるが、人口流出の続く飛騨のような地方部で、満足のいく働き手を確保することは容易なことではない。田舎暮らしに憧れている都会人は少なくないが、稼げる仕事がない、そもそも仕事がないということであれば、そうそう簡単に田舎に居を移すわけにはいかない。

 SATOYAMA EXPERIENCEを展開する「美ら地球(ちゅらぼし)」代表の山田拓氏も、著書『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』の中で、「地方部の企業にとって、最大の経営課題は人材の確保」と述べている。

「起業して最初の頃は、ずっと綱渡りでした。人づて、ハローワーク、自社ウェブサイトでの告知など、やれることはすべてやりました。海外の旅行会社での勤務経験を持つ女性がめでたく入社してくれたのに、近隣にフィットネスジムがないことを理由に4日で東京に戻ってしまったこともある。地元の男性が入社したものの数日で音信不通になったこともあります。今なら笑い話として話せますが、『ウチに来るのは所詮こんな人材しかいないのか』と暗い気持ちになりました」

 それでも試行錯誤を続けるうちに、ようやくスキルを擁した人材が集まるようになる。彼ら彼女らの貢献によってツアーの評判が高まると、インバウンドや田舎暮らしに興味を持つ人材からの応募が増える。そうしてようやく、質の高い人材によって事業の質も高まっていく「正のループ」が出来上がっていった。

「地域全体の人事部機能」を装備せよ

 事業立ち上げ期の人材集めに苦労した山田氏は、「地域全体における移住・定住政策を、一般企業における人事部機能として捉えるべきだ」と言う。

「日本中の地方自治体で定住者獲得競争が激しくなっていますが、ちょっとピント外れのものが多い。『自然豊か、人情豊かなわが町へ!』と東京でイベントを開催したところで、そもそも仕事の情報が集約されていないと実際の移住にはなかなか繋がらない」

 逆に言えば、仕事の情報を集約して発信すれば、移住へのハードルが一つ取り除かれるとも言える。

 一般的に、企業の人事部は採用部門と教育・研修部門によって構成される。採用部門は、組織内の人材ニーズを把握して採用活動を展開する。社員の不足するスキルや知識があれば、教育・研修部門が育成を担当して現場に戻す。この基本プロセスを移住・定住政策にも当てはめようというアプローチだ。

「この場合、都市部に集積している人材との接点を創る活動と共に、地域内で人材を求めている企業とのネットワーク構築も必要です。また、都会から移り住む人と地元の企業では、いろいろな意味でギャップもあるので、その双方の意識改革といった教育・研修も必要になってくる」

 SATOYAMA EXPERIENCEを展開する「美ら地球」の社員のほとんどは移住者。飛騨地域で例外的に多くの移住者を受け入れてきた経験から、山田氏は同社が「地域の人事部的な機能を担えれば」と考えている。

「地方部に移り住むということは、都市部でのキャリアを捨ててダウングレードするイメージがあるように感じられますが、個人的にはその逆で、地方部での新たなチャレンジはむしろキャリアアップを実現する機会になると思います。

 実際、都市部の企業で『その他大勢』扱いされていた人が、地方部の中小企業に移って重宝されるというケースは少なくない。我々のように、あまり他に例がないような活動をしていると注目されますし、評価も受けやすくなります。私個人を例としても、古川への移住はキャリアアップや自己成長に大きく寄与しました」

 SATOYAMA EXPERIENCEには、新卒ながら初シーズンから「トリップアドバイザー」で5ツ星のコメントを獲得し続けているガイドもいるし、東大や慶応のような有名大学を出た社員も働いている。

 需要もあれば供給もある。それをうまくマッチングさせる「仕組み」さえあれば、地方部への移住・定住は進んでいく可能性が高いのだ。

デイリー新潮編集部