おじさんはなぜフィリピンパブにはまるのか 『フィリピンパブ嬢の社会学』で読み解く本音
■男はつい貢ぐもの
「フィリピンパブのいいところは、安いことと、オレみたいな年配でもモテることだわ」 ※写真はイメージ
ホステスやキャバクラ嬢に、ついついはまってしまった、という経験を持つ人は少なくない。多くの場合は、単に男性側が貢ぐだけで終わる。そんなことはわかっているはずなのに、「俺だけは特別だ」と思わされてしまうのである。
『フィリピンパブ嬢の社会学』(中島弘象・著)は、著者が研究のために行ったはずのお店で働くホステスと恋に落ちて……という異色の体験を軸に、日本におけるフィリピンパブの実態を描いたノンフィクション系社会学だ。
中島氏の場合、20代前半でフィリピンパブに「はまった」ことになるが、実際のお客には若い人は少ない。一体どういう人が通うのか。同書をもとに見てみよう。
中島氏の知り合いの「クロダさん」は、フィリピンパブに15年以上通っているという50代後半の男性。仕事は現場作業員だ。クロダさんはこう話す。
「フィリピンパブのいいところは、安いことと、オレみたいな年配でもモテることだわ」
クロダさんの通う、名古屋市栄のフィリピンパブの相場は指名セット料、ドリンクを頼んで1セット60分で6000円程度。同じ街のキャバクラなら最低でも1万2000円はかかるというから、半額近い。とはいえ、そう安いわけではないので、若い人は常連にはならない、というのがクロダさんの解説だ。
サラリーマンにしても、子どもが幼くてローンを抱えて……という人にとっては、6000円は大きい。結果として、常連の典型は「子どもは独立、離婚して独身、自由になる金がそれなりにある50~60代の現役男性」となる。
クロダさんは、続ける。
「日本人の若い子がいるキャバクラだと、オレみたいなおっさんは相手にしてくれない。でもフィリピンパブは違う。オレでもモテるんだ」
■おじさんは行き場がないから
さて、本当におっさんはモテているのか。中島さんは、パブ嬢に聞いてみた。返ってきたのは身も蓋もない話である。
「常連のお客さんをゲットするには、まずお客さんに私のことを好きになってもらうね。例えば、ハグするとか、肩に頭を乗せて甘えるとか。それから、デブでもハゲでもおじいさんでも『あなたかっこいいね。私のタイプだよ。フィリピンでモテモテだよ』って話す。そうすれば私のこと好きになる。好きになったら絶対にお店に来るよ」
「若いお客さんは難しいよ。若いお客さんは『外で会おう。セックスしよう』ばかり。それで断ったらもう来ない。若ければ外でも彼女をつくれる。でも、おじさんは他に彼女つくるチャンスがない。だから断っても店に来るね」
……むろん、どのような恋愛であっても、結局は幻想にすぎないのだ、と前向きに考えることもできなくもないだろう。しかし、何だか全国のクロダさんに同情したくなるような内情なのである。