中国進出「日本企業」への悲惨な「チャイナハラスメント」――相馬勝(ジャーナリスト)

中国週刊新潮 2015年5月7・14日ゴールデンウイーク特大号掲載

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■スパイになれ!

 この話を聞きながら、筆者は自分が経験した「ある出来事」を思い出していた。

 10年8月、中国東北部のある都市に北朝鮮の最高指導者、金正日総書記が滞在したとの情報が流れた。筆者はこれを確認すべく、その都市に駐在していた知り合いの日系企業の総経理(社長)にメールなどで連絡を取り、金氏の動向について尋ねた。

 彼は中国人の知人の情報を元に「金氏は間違いなく東北部の都市に滞在し、中国共産党要人にも会っている」と教えてくれた。とはいえ、彼の話はすでに中国情報専門のニュースサイトで報じられ、その事実確認がとれたに過ぎない。

 それから3カ月後、突然彼から電話があった。「いま、東京にいます。実は国外退去処分になりました」と言うのだ。驚いて、すぐに会って話を聞いた。

 彼によれば、その3日前に、中国の情報機関である国家安全部の要員が職場にきて、有無を言わさず、彼らが取り調べで使っているホテルの一室に連れて行かれ、尋問を受けた。彼らは彼と筆者がやりとりしたメールをすべて読んでおり、「あなたが書いた内容は国家機密だった」と強調。おもむろに次のように述べた。

「このまま監獄に入るか。3日以内に中国を出るか。あるいは、我々のスパイになるか。一つ選べ」

「中国を出る」

 彼は迷わず答えた。

 その後、調べたところ、彼が社内で最も信頼していた中国人副社長が、知り合いの国家安全部要員と彼のことで内通していたことがわかった。副社長は、この社の製品の技術情報が欲しかった。そのために上司である彼が邪魔だったのだ。副社長はすでに退社して独立。一方の私の知人はいま、東京で中国以外の仕事をしている。

 こうした事例からわかるとおり、中国ビジネスの価値基準は第一にカネだ。カネのためなら、平気で上司を裏切り、技術を盗む。

 これが顕著に現れるのが、中国社会のありとあらゆるところで蔓延(はびこ)っている「袖の下」においてである。

 その実態を明らかにするのは、他ならぬ中国出身者。日本企業の営業マンとして、中国側と渡り合い、その体験を『中国人OLは見た! 猛毒中国ビジネス』としてまとめた張益羽さんである。

 彼女は上海の大学を卒業後、日本に留学。東京の広告代理店に就職し、現在は日本国籍を取得しているが、「中国ビジネスではキックバックや賄賂の要求は当たり前です。私の知人の体験ですが、上海で土地使用権の入札のために会場に行ったら、出てきた行政側の担当者に“各社は金額を出してください”と指示されたそうです。入札額だと思うのが普通ですよね。でも、改めて聞くと、それは違って、彼らに渡す“キックバックの額”だったというのだから、呆れてしまいます」

 張さん自身も、10年の上海万博前後に中国企業2社を担当した際、要求の激しさに辞易した経験を持つ。

「交渉は“アンダーテーブル”で決まるのが常識でした。ある国有企業から上海万博でのイベントを受注したのですが、その見返りとして、取引先の担当者からちょこちょこキックバックを求められたり、“ホステスのいるカラオケに連れて行って”と頼まれたりしたこともありました。私は応じませんでしたが、すると、結局、そうした要求に柔軟に対応した企業に契約を奪われてしまいました。しかも、私たちのアイデアまで盗まれていた。このような経験から、私は中国側との交渉でテーブルにつくと、まず“この人は一体いくらほしいのだろうか”と思ってしまうようになりました」

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