ポツダム宣言に「日本の戦争は間違い」とは書いていない 新聞が書かない歴史の真実

社会2016年8月25日掲載

■首相は歴史を知らない?

 8月15日の終戦記念日に開催された「全国戦没者追悼式」を報じる新聞、テレビのニュースでは天皇陛下のお言葉が大きく取り上げられると共に、安倍晋三首相の式辞もまた注目された。安倍政権に対して批判的なメディアは、首相が「加害と反省」を述べなかったことについて批判的なトーンで取り上げている。

 安倍政権の誕生以降、首相の戦争についての「認識」が問題とされることは少なくない。中でも大きな話題となったのは、「安倍首相はポツダム宣言を読んでいなかった」というニュースだろう。

 昨年5月20日の国会の党首討論で、共産党の志位和夫委員長と安倍首相との次のようなやりとりがあった。

 志位委員長「総理はポツダム宣言の、日本の戦争は間違った戦争であるという認識を認めないのか」

 首相「我々はポツダム宣言を受諾をし敗戦となりました。ポツダム宣言の、日本の戦争の間違いを指摘した箇所については、私はつまびらかに読んでないので今ここで答えられない」

志位委員長、安倍首相

 ここでの「つまびらかに読んでいない」という言葉が批判の対象となった。

 たしかに、首相ならばそういう大事なことについては熟知していて欲しい、と思うのは一般国民の普通の感覚だろう。また、ポツダム宣言と言えば、日本が敗戦を受け容れた時に受諾したものなのだから、「日本の戦争は間違いだ」という内容なんだろう、と思っている人も多いだろう。

 しかし、実は志位委員長の言っていることのほうが間違っている、と指摘するのは早稲田大学教授の有馬哲夫氏だ。有馬氏が、国内外の公文書館などから発掘した第一次資料をもとに執筆した新著『歴史問題の正解』の中から、驚きの事実を紹介してみよう(以下、同書より)。

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■志位委員長の知らない「ポツダム宣言」

 志位氏の論理は「日本の戦争は間違いである」としたポツダム宣言を日本は受諾し、降伏したのだから、日本は先の戦争を間違いであると認めたのだ、だから安倍よ、あの戦争が間違いであったと認めよ、ということだ。首相は「間違いではない」といえば、国内外の反日メディアが大喜びでこの発言を世界に広めるので、賢明にもこうかわしたのだろう。

 このやり取りについて、安倍政権に批判的な論者やメディアは「首相はポツダム宣言すら読んでいない」と勢いづいて批判していた。

 しかし、この勝負志位氏の勝ちで、安倍氏の負けだろうか。歴史的事実に照らせば逆である。ポツダム宣言中には、少なくとも「日本の戦争は間違いである」と解釈できる部分はない。最もそれに近いことを言っているのは、次の第四条と第六条だ。

「四.日本が、誤った計算により自国を滅亡の淵に追い込んだ軍国主義的助言者の支配を受け続けるか、それとも理性の道を歩むかを選ぶべき時が到来したのだ」

「六.日本国民を欺いて世界征服に乗り出す過ちを犯させた勢力を永久に除去する。無責任な軍国主義が世界から駆逐されるまでは、平和と安全と正義の新秩序も現れ得ないからである」

 問題は主語である。第四条では、「自国を滅亡の淵に追い込んだ」のは「軍国主義的助言者」になっている。第六条でも「日本国民を欺いて世界征服に乗り出す過ちを犯させた」のは「過ちを犯させた勢力」、「無責任な軍国主義」になっている。

 ポツダム宣言ではJapan(日本)、the people of Japan(日本国民)、 the government of Japan(日本政府)、 the Japanese armed forces(日本軍)、 militaristic advisers(軍国主義的助言者)という主語が注意深く使い分けられていて、決して混同されていない。なにより、天皇にも皇室にも言及されていない。これは偶然ではなく、そこに作成者が細心の注意を払っていたからだ。

 とくに注目すべきは、第四、第六条でも明らかなように、軍国主義(それを奉じる人々)、軍国主義的助言者と日本(および皇室)、日本国民、日本政府をはっきり区別していて、誤っていたのは、前者であって、後者はその被害者だとしていることだ。

 前者は日本軍や日本の軍部とすら区別されている。これは草案の段階からあったもので、まさしくそれを意図しているのだ。

■悪いのは軍国主義

 つまり、戦争責任は軍国主義と軍国主義的助言者(日本軍や日本の軍部ではない)にあるのであって、連合国はけっして日本(天皇)や日本国民に戦争の責任を負わせたり、その罪を問うたりしない、また、「無条件降伏」を求めるのは日本軍にであって、日本や日本国民にではない、だから早期に降伏せよということだ。

 ポツダム宣言の作成者は、日本側がこれを受け取ったときに「日本の戦争は間違いである」といわれたと受け取ることがないよう細心の注意を払ってこのような表現にしたのである。なぜなら、志位氏のような言い方をしたなら、日本人および日本軍はポツダム宣言を受諾できず、本土決戦を決意することを知っていたからだ。また、彼らは、自らの開戦期の経験から、日本がアメリカに「間違った戦争」を仕掛けたのではないことをよく知っていた。

■狙いは「皇室の存続」

 志位氏は「日本の戦争は間違いである」といったが、このものいいは、軍国主義、軍国主義的助言者と日本(天皇)、日本国民を明確に区別してあるものを、わざわざ混同させており、ポツダム宣言の趣旨を捻じ曲げたものといえる。

 志位氏は驚くだろうが、もとはといえばこの宣言は、日本を開戦に追い込んだルーズヴェルト大統領の仕打ちを批判し続けた「碧い眼の天皇崇拝者」が、皇室を残すために考え出したものなのだ。したがって、志位氏の恣意的な解釈は、この作成者の意図からみてもまったくの誤りだといえる。

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 有馬氏は第一次資料をもとに、ポツダム宣言ができる経緯についても詳述している。

 こうした解説に対して、反論したい向きもいるかもしれない。同書には、論拠となった第一次資料はすべて明示してあるので、反論したい方はそこから当たってみたうえで、別の根拠を示すのがいいだろう。有馬氏は、そのように根拠を示して議論しなければ「歴史を巡る議論はただの言い合いになり、水掛け論になる」と述べている。

デイリー新潮編集部