【ロシアの邦人記者拘束】「日本で活動するロシアスパイは約80名」元警視庁公安部捜査員が明かす「生々しい工作活動」

INCIDENT 国内 社会

  • ブックマーク

 ロシアのサハリン州で10月13日、北海道新聞ユジノサハリンスク支局の今井裕紀記者(34)がスパイ容疑で拘束された。ロシア連邦保安庁(FSB)の捜査員らによって今井記者が床に組み伏せられ、後ろ手に手錠をかけられる様子を国営タス通信が公開。まさに見せしめである。だが、日本政府が解放を求めて強い姿勢に出ている気配はない。そこで、長らく“スパイ天国”と呼ばれてきたわが国の実情を、諜報活動のエキスパートに聞いた。

***

日本政府の情報不足

 まずは、外務省関係者の話。

「高市早苗首相は外国勢力による工作活動の防止といった防諜体制の整備に意欲を示してはいますが、現時点で、日本国内における諜報活動を取り締まる“スパイ防止法”がない状況に変わりはありません。一方、今回の道新記者拘束で、日本政府ができることは限られています」

 道新は、日本のメディアで唯一サハリンに支局を置いていた。

「その駐在員である記者が、北方領土および千島列島の住民たちからウクライナ侵攻に動員された兵士や志願兵の人数について情報収集していた。これが日本の情報機関の指示に基づいたものであり、スパイ行為に当たる、ロシア当局はこう主張しています。ですが具体的に、記者がどこでどのような情報を得ていたかは明かしていない。日本政府も、詳細を把握できていません」

 モスクワのレフォルトボ拘置所に収監された今井記者は、裁判所の決定で12月12日まで勾留されるという。仮に裁判で有罪となれば、長期刑が言い渡されるおそれもある。

「これまで政府がとった対応は、ロシア側に情報提供や人道的配慮、公正公平な取り扱いを申し入れたぐらい。現地の日本大使館員が道新記者と面会できたのは拘束から13日も経ってからでした。非公式なルートでの情報収集も成果はなく、“記者はスパイ活動など行っていない。即時解放せよ”と突きつけられる証拠や情報が不足しているのです」

人質外交

 日露関係は戦後最悪ともいえる状態にある、と外務省関係者が続ける。

「2022年2月のウクライナ侵攻以降、対露経済制裁を実施しており北方領土問題などの交渉も進展が見込めない状況にありました。記者拘束6日後の10月19日は、日ソ共同宣言から70年の節目でした。なのにこんな“人質外交”にもつながる事件が起きた。わが国はロシア人スパイを拘束していないので“身柄交換”をするわけにもいきません」

 その身柄交換について、元警視庁公安部外事課勤務で“スパイ捜査のプロ”、勝丸円覚(えんかく)氏が解説する。

「3年前、ロシアで取材中の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記者が拘束された際には、懲役16年の判決が下りました。このケースでは欧米諸国で拘束されていたロシア人との交換に至り、WSJ記者は1年4カ月後に解放されました」

 しかしながら、今回はWSJ記者のケースとは事情が異なる。

「日本側は現時点で、道新記者の解放についてひたすら頭を下げるしかありません。今回のスパイ容疑では最長で20年といった長期刑が下る可能性があるにもかかわらず、日本側はお願いしかできない。解放に向けた努力をしていないとはいわないが、これが実情です。それもこれも、“スパイ防止法”がないことが理由です」

 その日本国内における諜報活動の検挙は、スパイ容疑とは別のものになる。

「たとえば今年1月、警視庁公安部が在日ロシア通商代表部職員を不正競争防止法違反容疑で書類送検したような形です。職員がウクライナ人を名乗り、対象とした日本の工作機器メーカー社員に近づいて営業秘密を聞き出したとされます。職員は最初、メーカー社員に道案内を求め、後日、“お礼をさせてほしい”と連絡して交流がはじまった。面会は約10回、現金約70万円が謝礼として手渡されていました」

 このようにピンポイントで狙われた例で世間を賑わせたのが、

「20年1月の“ソフトバンク事件”です。携帯電話の5G設備に関する情報をロシア通商代表部の代表代理に洩らしたとして、ソフトバンク社員が不正競争防止法違反容疑で逮捕されました。ナンバー2は社員の逮捕時にはすでに帰国済み。同法違反などの教唆容疑で書類送検にとどまりました」

次ページ:日本国内に総勢80名程度

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]