「渡辺淳一」「伊集院静」が愛した銀座の老舗割烹「三亀」79年の歴史に幕…87歳店主が明かした「特別なことはしないで、店は静かに閉じます」の粋
「数寄屋通りにある小料理屋」
<夜、久木は銀座の数寄屋通りにある小料理屋で衣川と会った(中略)二人は親爺がすすめるいしだいの刺身と土瓶蒸しを頼み、まずビールで乾杯する。>
大ベストセラーになった作家渡辺淳一の作品『失楽園』の一節である。カウンター席に座った主人公の久木は、親友の衣川に恋人の凛子のことを相談する。そんな場面だ。
この店のモデルとなったのが、渡辺が贔屓にしていた銀座6丁目の数寄屋通りにある老舗割烹の名店「三亀」である。日経新聞連載時には、この場面が挿絵になっており、その絵は額装して店内に飾られている。【四方田隆/元「週刊新潮」編集部副部長】
【写真を見る】「三亀」店主・南条勲夫さんの穏やかな笑顔…銀座を代表する名店がまたひとつ姿を消す
今年で創業79年になる。作家や画家、政財界人など著名人が数多く訪れているが、決して敷居の高い店ではない。長年にわたり、地元銀座の商店の旦那衆や一般の客が常連となって愛用してきた。そんな名店が10月末で店を閉め、長い歴史に幕を引くことになった。店主の南條勲夫さんは今年87歳。「くたびれました」というのがその理由である。
「三亀」は、昭和22年、まだ戦後の焼野原だった銀座のこの地で開業した。2代目店主となった南條さんは、関西割烹の名店「出井(いずい)」で修業して父親の跡を継いだ。現在の店内はカウンター5席、4人掛けのテーブル席が4つ、奥に6名まで利用できる座敷がある。
店は、夫人の早苗さんと切り盛りしてきた。他に、厨房に板前が3人、南條さんの次女と2人の女性が接客係で、店は常連客で賑わっていた。しかし、長女は岐阜県の老舗割烹に嫁ぎ、男子の後継者がいなかったという事情があった。
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