天才しかいない東京藝大で“個性を獲得する”ことの意味…卒業生の現代アート作家は恩師の「キャラクターの線がいいな!」で決意

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壁に囲まれた空間で模索

――そんな悩みの中で、ご自身の分身ともいえるキャラクターを使って表現する、現在の作風が生まれたわけですね。

中風:一時期、藝大のアトリエに壁を設置して、他の人から見えない場所で生活するようなことをしていました。壁に布を貼り、ペンで自分が小さい頃から描いていたデフォルメが強いキャラを、何も考えずに黙々と描き続けたのです。

 ある日、小林先生が壁の絵を見て、「キャラクターの線がいいな!」と言ってくれて。キャラクターから生まれる線が武器になるとその時に感じ、「キャラクター」と「線」をテーマに創作していこうと決意しました。

――小林先生が中風さんを導いてくれたのですね。

中風:そうですね。大学を卒業する時、「外で一度揉まれて来い」と言われたのですが、俺は、外で1人でやっていても決められない性格だとわかっていたので、「俺は大学院に入るしかないんです」と言って、小林先生と喧嘩になったのです。

 そのかわり、「真剣にやらないと許さないぞ」と言われましたし、大学院に入った直後は叱られまくった思い出があります。そんなどうしようもなさを極めた結果、キャラクターや線は自分らしい表現なんだなと、わかったわけです。

――アーティストの活動は、自分と向き合うことが大事だということがわかります。中風さんにとって、キャラクターはかけがえのない存在というわけですね。

中風:俺は子供の頃からキャラクターを描いてきました。今も、キャラクター的なものに導かれて描いていると思います。キャンバスに向き合う前にキャラクターを無限にドローイングして、1日ごとにその時に生まれる線のニュアンスを発見して油絵に落とし込んでいく、というのを繰り返している感じです。

作風だけでなく画材も探究する

――私が初めて中風さんの絵を見た時は、キャラクターのかわいらしさもさることながら、油絵らしくない油絵だなと驚きました。そもそも、油絵具でこのような自由な線を描いているとは思いませんでした。滑らかな線を生み出すために、ペンを独自に開発しているそうですね。

中風:自分らしいキャラクターの線を描くため、大学院の頃から、油絵具を使ってマーカーのように描けるペンを求めていたのですが、満足いくものが見つかりませんでした。そこで、ペンを自作するようになりました。

 インクの濃淡が思い通りに出なかったり、少しずつ油絵具が内部で揮発してしまうので匂いの原因になったり、ペンをしばらく使っていないと乾燥してしまうなど、まだまだ改良の余地はあります。

 とはいえ、画材として使えるレベルにはなってきたかなと。画材研究の成果は、今年、千葉県立美術館で発表する機会をいただきましたが、継続して今もやっていますね。

――中風さんの今後に期待したいですね。この先、どんな作品を発表していきたいと考えていますか。

中風:最近、現代アートで扱われているキャラクターの門が、商業のほうに開かれている気がするのです。キャラクターをテーマにしたアートは、コマーシャルギャラリーで扱いやすいものなのかもしれません。そんななかで、自分は歴史に残るようなキャラクターアートを真剣に考えています。

 キャラクターアートは、浮世絵などの日本美術の文脈や流れを載せやすいし、外国人にも受けやすいとは思います。ただ、自分は外国人の顔色をうかがうのではなく、生まれた頃からあった現代の文化の中で培った、キャラクターや線の特性を生かした作品を作っていきたいと思います。

第1回【受験の課題は「今晩のおかずを描きなさい」…OBアーティストが明かす“東京藝大”天才たちの日常 「“マイケル・ジャクソンしか描きたくない!”という人もいましたね(笑)」】では、現代アート作家の中風森滋氏に、自身の出身校である東京藝術大学の、一風変わった受験科目や、個性的な学生たちの実態などについて、詳しく話を伺っています。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部

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