世帯年収1000万円でも小学校受験は無謀!? 入学後に続くケタ違いの“交際費” 「お受験」おカネ事情

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 今月中旬、名門私立小学校の雄・慶應幼稚舎の合格発表が行われるなど、首都圏の小学校受験は佳境を迎えようとしている。

 小学校の「お受験」というと、芸能人や有名人の子どもが名門私立小学校に合格したニュースが毎年のように流れ、「超がつくお金持ちや特殊な家庭の子どもがするもの」というイメージも根強い。

「子どもの人生は幼いうちに決まってしまう」という考えを持つ親も多く、最近は特に首都圏を中心に名門私立のお受験が盛んになってきているという。

 しかし、一般化してきた中学受験と比べるとまだまだ都市伝説的なうわさや謎の多い小学校受験界。「わが家の世帯年収で、手を出してよいものか?」と迷っている方もいるかもしれない。無理に背伸びをしたらあとあと大変なことになるかも、という不安を抱くのは当然だ。

 どのくらいの収入があればいいのだろうか?

 どのような条件がそろっていれば、背伸びにはならないのだろうか?

 合格以前の問題として、準備にどのくらいかかるのだろうか?

 厚いベールに包まれた「小学校受験」にまつわるお金事情を、自身も子どもの小学校受験を経験したファイナンシャルプランナーの加藤梨里氏に解説してもらった。(以下は、『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』より一部抜粋し、再構成したものです)

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コロナ禍で過熱した小学校受験

 広い意味での小学校受験は私立と国立の小学校の入学考査を指しますが、国立校は全国で70校ほど、私立小学校も240校ほどしかありません。うち約100校は東京・神奈川・千葉に集中しています(文部科学省「学校基本調査」令和3年度)。ですから、ごく一部の地域に限った現象ではありますが、小学校受験の裾野は広がりつつあります。

 共働きによって収入が増えた家庭で、受験費用や私立小学校の学費にも手が届きやすくなっていることや、共働き世帯の増加に合わせて学童を併設する私立小学校が増えていること、激化する中学受験の回避策として注目されていることなどから、富裕層というわけでなくても、子どもを小学校受験させる家庭が増えてきているといわれています。

 しかし、小学校受験は中学以降の受験と比べて、受験できる学校の数も少なければ各学校の募集定員も少ないため、合格率は数倍から十数倍という学校がほとんどです。

 小学校受験ではごくまれに、特別な受験対策をしていなくても合格する子どももいるにはいますが、この高倍率をくぐり抜けるため、ほとんどの場合は幼児教室に通い、みっちり対策をして臨むのが現実です。すると、やはり相応の費用が必要となります。

受験対策費用はブラックボックス

 小学校受験対策をしてくれる幼児教室の基本授業料は、集団授業の場合、年少・年中児は月2~5万円程度、年長になると月5~10万円程度です。学習するのは算数、国語のような教科ではなく、大人が就職活動で受検するSPIなどの適性検査や、生き物や食べ物が複数描かれた絵の中から仲間はずれのものを選ぶなどのクイズのような問題が中心です。ペーパーテストがなく、遊びや体操などの活動の様子を見る行動観察や面接だけで合否が決まる学校もあります。

 こうした試験のために、幼稚園の年中から2年間通うパターンが標準的です。期間を絞ったり、手頃な料金設定の教室を選んだりすれば、総額20~30万円程度で対策することも理論上可能ではあります。小学校受験に関心を寄せる家庭では、このくらいの受験費用の負担で公立小学校にはない施設やカリキュラムでわが子に小学校6年間を過ごす経験をさせられるなら、お金をかけるに値すると考える人も多いのですが、いざ蓋を開けてみると、それだけでは済まないことが少なくありません。有名小学校にどうしても入れたいという家庭では、幼児教室の基本授業料だけで100~200万円かけるのもごく普通です。

 受験本番の年長になると基本的なコースに絵画や体操、志望校別クラスなどのオプション講座が加わり、それに加えて季節ごとに春期講習や夏期講習、本番シーズン前の直前講習、模擬試験や教材費、出願用の写真撮影料、面接に着ていくスーツや靴、そして志望校の出願料など、出費が増えます。ほかにも、親の送り迎えの交通費や行動観察や面接対策としての自然体験や旅行など、挙げればきりがありません。すべてを合わせると、出費は300万円以上になったという家庭も珍しくありません。

 ここまで読んでいただければわかるように、小学校受験には普通の習い事とは比べものにならないほどの費用がかかります。受験に限らず、勝負事となるとお金の出ていく勢いが格段に変わるのが世の常です。この時期の子どもは素直ですし、親の考え方次第で対策にいくらでもお金が注ぎ込めてしまいます。それが小学校受験の恐ろしいところでもあるのです。

入学後も出費は続く

 そして、忘れてはならないのが小学校入学後のことです。私立小学校の授業料は年間100万円前後が普通で、公立ではかからない施設費も年間数十万円規模で必要です。

 子どもを私立小学校に通わせる家庭の66%は世帯年収1000万円以上です(文部科学省「子供の学習費調査」令和3年度、以下同)。公立小学校では20%弱ですので、経済的な背景がずいぶん違うことがうかがえます。小さな子どもにあからさまに経済格差を突き付けるのも酷な話ですが、世帯年収1000万円の家庭でも私立小学校に入れば相対的に見ると決して余裕のある方とは言えなくなるかもしれません。

 実際、子どもを私立小学校に通わせている家庭に話を聞くと、週末には必ず外食をする、誕生日に盛大なホームパーティをする、夏休みには海外に旅行やプチ留学に行くなど、経済的なゆとりが感じられます。保護者会の帰りには保護者同士でホテルのラウンジでお茶を飲むのが定番になっているなど、おつきあいに一定の出費を伴うこともあるようです。学校外のことと割り切ることは不可能ではないかもしれませんが、6年間の小学校生活で友人たちと比べて惨めな思いをしない程度の経験を子どもにさせてあげるためには、学校外でもそれなりの出費を覚悟する必要があるでしょう。

 小学校受験をさせる家庭には、中学受験を回避するために小学校での受験を選ぶ人もいます。大学の附属校なら中高一貫校や大学まで内部進学できるところが多いため、一度入学してしまえばもう塾に行く必要がなく経済的と思われがちです。しかし、実は必ずしもそうではありません。小学生のうちにかける塾代は公立よりも私立に通う子どもの方が高額です。

 公立の小学生の学習塾費の平均は年間約8万円ですが、私立では約27万円と3倍以上の差があります。その上、私立小学校に通わせる家庭では、入学直後の1年生時から既に平均年間17万円以上の学習塾費をかけているのです(文部科学省「子供の学習費調査」)。経済的に余裕があり、教育熱心な家庭が多いという事情はもちろん、附属の中高への内部進学枠が限られている学校では進学のために一定の成績を保たなければならないため、早くから塾に行かせるケースもあります。小学校受験を突破しても、塾代から逃れられるわけではないのです。

 また、首都圏では外部の難関中学を受験することを前提としながら、受験対策が手厚く環境の整った私立小学校に入学させるという家庭も少なくありません。

 小学校に入学したら、受験するか否かの意思決定を含めて次は中学受験が待っています。中学受験は受験できる学校数が多いので小学校受験に比べると定員が多いとはいえ、受験生の数も桁違いに多いので激戦です。受験対策に必要な学習量も、お金の負担もいっそう増えます。

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 加藤氏は同書で、世帯年収1000万円の家庭が小学校受験・中学受験・大学への自宅外通学などを選択した場合の具体的なキャッシュフローのシミュレーションを紹介したうえで、過度な教育課金を原因とした老後破産に陥らないためには、無理のない教育資金計画が必要であると述べている。

『世帯年収1000万円―「勝ち組」家庭の残酷な真実―』から一部を抜粋・再構成。

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