「歴史改変」はどこまで許されるのか 朝ドラ、大河でも…西川美和監督の新作映画で改めて考えた時代考証の重み
同じ時代の別物語
同じ時期を描きながら、全く異なるストーリーとなったドラマがある。朝ドラこと連続テレビ小説「あんぱん」(2025年度前期)である。
ヒロイン・のぶ(今田美桜)は1938年だった第35回、教師に採用された。直後から徹底した軍国教師になる。戦争に否定的な長妹・蘭子(河合優実)は眉をひそめた。
のぶが教師を辞職したのは、終戦後の1946年。第61回だった。学校を去る前に児童たちに向かって、「先生は間違うていました」と詫びる。直後の第65回、高知新報の入社試験を受け、合格した。
あり得ない話である。新聞界も元軍国主義者を追放していたからだ。これもGHQの指示だ。一度は元軍国主義者を排除した新聞界が、新たに元軍国主義者を採用するはずがない。GHQの目も光っていた。
日本が終戦時に受諾したポツダム宣言の第6条には、こうある。
「日本国民を欺き、世界征服に乗り出す過ちを犯させた権力、勢力を永久に除去する」
軍国主義者の排除も、GHQによる占領政策の狙いの一つだったのだ。本人が悔い改めようが、関係なかった。戦時中の言動によって、軍国主義だった人間は排除された。
新聞界の人物だけでなく、政治家、官僚、町内会長まで追放の対象となった。その数は実に21万人にも及んだ。GHQが民主主義の旗振り役として期待した新聞社が、のぶを入社させるというのは荒唐無稽なのである。
のぶのモデルである小松暢さんが新聞記者をしていたのは事実。だが、教師の経験はない。それでも、暢さんが教師から新聞記者に転身したと思った人はいるはずだ。
この朝ドラは、漫画家のやなせたかしさんと暢夫人をモデルとし、代表作「アンパンマン」などが登場することから、現実味があった。そうでなくても、まさか歴史的背景まで改変してあるとは思わないだろう。
日本は軍国主義から民主主義に転換するため、多くの犠牲を払った。軍国主義を声高に叫んだ人間は切り捨てられた。日本に問われた戦争責任は、軽いものではなかったのだ。その事実を忘れ去っていいのか。
この朝ドラは海外でも視聴可能だったが、外国人の誤解も憂慮される。海外の人々は日本と戦争について悪い印象を抱きがちだが、日本人が無反省だと思われる恐れがある。
当時は軍国教師ばかりだったかというと、そんなことはない。1937年、京都府京丹後市の教師は警察署で取り調べを受けた。戦時下に平和教育を行っていたからだ。
この教師は取り調べの最中に急死した。警察側は遺族に対し、「遺体を医者に見せるな」と厳命する。今、教師の墓石には「平和を愛し戦争に反対して」と刻まれており、墓参する教師が絶えない。
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