ひきこもり12年で「厄介なおばさん」に イモトアヤコの「俳優とは違う風味」の正体

  • ブックマーク

 若い頃、実家は居心地が悪く、一刻も早く出たいと思っていた。母からも「深夜に帰宅して電話したりテレビ見たりでうるさいから、就職したら出ていけ」と言われて、21歳で出た。写真やらぬいぐるみやらランドセルやら学生服やら、私の荷物は実家から一瞬で消えた。片付け魔の母に廃棄されたり、雑にまとめて渡された。20代で既に実家は自分の家ではなくなった。同年代で、実家にまだ自分の部屋があるという人が多くて驚く。子供部屋を永久保存できるおうちは、基本、親が寛容で家が広くて部屋数が多くて裕福だ。取捨選択を迫られることもなかったのだろう。

 なんでこんな話をするかというと、ひきこもりが可能な条件とも重なるからだ。28歳から実家に引きこもり、気が付けば40歳になってしまった田村ウズメが主人公の「再生のウズメ」の話です。

 ウズメを演じるのはイモトアヤコ。私は彼女の無防備というか無頓着さが好き。隠し切れない自意識で演技がどうしてもくさくなるベテラン俳優(もう誰も茶化さない)や、全方位への愛想ばらまき力が鍛えられ、自分の見せ方を知り尽くしているせいで個性も味気もないアイドル俳優とは違う。かといって、動画配信ネイティブ世代の無敵で無礼な無謀さとも異なる。苛酷なロケとバラエティー的ニーズに満身創痍で応じつつ、役者としての幅も牛歩ながら広げてきたイモトには、独特な風味がある。「ご縁ハンター」(NHK)、「家売るオンナ」(日テレ)、「下町ロケット」(TBS)で演じた役がよかったなぁと思い出しながら、この主演作もひそかに楽しみにしていた。

 ウズメはひきこもり12年、元役者で負けず嫌いの皮肉屋だが、なんらかの心の傷を抱えている。とはいえ、重症ではなさそう。自室で映画を見まくってはネットで文句を垂れ流す、厄介なおばさんと化している。

 黙って見守る父(菅原大吉)とは異なり、業を煮やして第三者を介入させることを決意したのは母(市毛良枝)だ。呼ばれたのは便利屋・興梠(こおろぎ)侑誠。演じるのは、この十数年、地上波ドラマに出続けている印象の白洲迅。「押忍!!ふんどし部!」(テレビ神奈川他)の頃から観測しているが、丁度いい湿度の万能二枚目俳優として皆勤賞を授けたいくらい。

 汚部屋清掃の依頼先にいたウズメが元役者と知り、代行業スタッフとして働かないかと誘う興梠。まんまとウズメを外に連れ出すことに成功。ウズメはさまざまな代行案件をこなして、再生していくと思われる。ひきこもりからの脱出はそう容易ではないだろうが、やはり親の決断は大きい。過去にも佐藤二朗主演「幼獣マメシバ」シリーズ(東名阪ネット6他)や、松田龍平主演「0.5の男」(WOWOW)があった。ひきこもり中年男に対して、親やきょうだいが動く話である。親は居心地の悪い家づくりを目指すのが最善、と思わせる。

 ひきこもりドラマの主人公は男が多いが、今作は中年女という点で注目。そのリアルな悲哀と焦燥感をイモトが体現してくれるはず。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2026年10月22日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。