上白石萌音の演技力が「図抜けている」 江戸の町娘が現代の教師に憑依する異色ドラマが話題なワケ
画期的な設定
いろはは「ここ、どこだよ?」と声を上げた。ビルが建ち並び、夜でも明るいことから、「極楽か」「奇術じゃねぇか」と不思議がる。やがて彩葉の服を着ていることに気づき、「オレの着物はどこやったんだよ!」と憤った。
一ノ瀬は面食らう。彩葉がストレスでおかしくなったのだと考えた。だが、やがて入れ替わりを信じる。いろはは「ストレス」という言葉すら知らなかった。一ノ瀬が名前を名乗ると、「お武家でもねぇのに、名字を名乗るとは、どういう了見だ!」と怒った。江戸時代は、武士以外は名字を公称できなかった。
いろはが「この間、綱吉様が5代目の公方様になったばかりだ」などと口にしたことから、1685年から来たと分かる。徳川綱吉が5代目将軍に就いたのは1680年である。
どうして、いろはの魂は341年前からタイムスリップしたのだろう。理由はやがて明かされるだろうが、カギの一つは彗星の接近ではないか。ニュースアナウンサーが「江戸時代の人も同じ彗星を見た」と強調していた。無駄な情報とは考えにくい。
1685年に地球へ近づいた彗星があり、それが2026年に再び接近した。その影響でタイムスリップが起きたのではないか。300年程度の周期で回帰する彗星は珍しくない。
もう一つのカギは、消えた算額絵馬である。いろははタイムスリップした直後、「絵馬がねぇ」と動揺した。現代に来る直前まで、その算額絵馬を見ていた。
江戸中期、日本では数学が盛んで、神社に算額を奉納する風習も広がっていた。難解な問題を算額絵馬に書いて神社に掲げ、人々に解答を求めた。難問が解けたことを神仏に感謝し、絵馬を奉納することもあった。
いろはが見ていた算額絵馬には何が書かれていたのか。その内容も、時空を超えた理由に関わっていると見る。
脚本は長田育恵氏(49)。NHK連続テレビ小説「らんまん」(2023年度前期)を書いた人だ。小説家で劇作家だった井上ひさしさんの最後の愛弟子である。
井上さんはユーモアを交えながら社会を批判する作品を得意とした。この物語も、師匠の作風を受け継いでいるのだろう。制約の多い連続テレビ小説とは違い、長田氏が井上さんの弟子であることを印象づける一作になりそうだ。
この物語にもユーモアがあふれている。いろはは一ノ瀬とビルの屋上からエレベーターで地上へ降りるが、ドアが閉まると、恐怖に震える。
「おいおい、閉じ込められてるぞ!」
地上に着いたときには、力なく座り込んでいた。初めて感じるG(加速や減速による重力加速度)に驚いたのだ。
風刺も効いている。一ノ瀬から、今の親が教師に躾まで押しつけていると聞くと、いろはは怒りをあらわにする。
「ふざけんじゃねーよ」
さらに、こう言った。
「お武家であろうが、町人であろうが、先生の前ではみんな頭を垂れるんだ。子を叱るのも褒めるのも全て先生の判断。親は口を挟めねぇ」
いろはは江戸時代中期の教育観を口にしただけだが、それは自然と現代の親の一部への辛辣な批判になっていた。
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