“総工費400億円”と“常軌を逸したこだわり”が生んだ「ホテル川久」…バブル建築を代表する南紀白浜の“名城”
紫禁城に使われた瓦が約47万枚
外観を印象付けているのが屋根に葺かれた黄色い瓦だ。それらはただの瓦ではない。中国の紫禁城などに使われている瑠璃瓦であり、皇帝以外は使えない老中黄という皇亨の色(注:中国の伝統的な色)で焼かれた特注品である。はじめは別の瓦で葺くことを想定していたが、堀氏が永田氏と紫禁城を訪れた際に感銘を受け、「この瓦を使いたい」と意見が一致したのだという。
さっそく瓦を焼ける中国の職人のもとを訪れたが、もちろん首を縦に振ってはくれない。21回も通い詰めて交渉を重ねるうちに、職人たちも熱意に負けたようで、限られた納期の中で約47万枚の瓦を焼いてもらうことができたという。この人だと決めた職人の腕を見込んで交渉を重ねた堀氏の情熱に脱帽である。
屋根で躍動する巨大なウサギのブロンズ像は、彫刻家のバリー・フラナガン氏によるもので、同氏の作品では世界最大級の特注品なのだという。外壁のレンガは凹凸状に積み上げられて模様が作られている。イギリスのイブストック社の製品を約140万個使用しており、それをレンガ職人の高山彦八郎・彦十郎親子が積み上げていった。
これだけの大規模な建築であれば、通常なら大手ゼネコンに一任して建設されるのが普通である。ところが、堀氏は自ら職人を探して東奔西走し、直々に交渉したうえで、発注しているのだ。だからこそ、既存の建築にまったく似ていない、施主の審美眼が100%発揮された建築が生まれたと言っていいのだろう。
天井に金箔を貼った荘厳なロビー
外観と並んで圧巻なのが館内のロビーである。とにかく広い、天井が高い、そして絢爛豪華“すぎる”のだ。24本の巨大な瑠璃色の柱が金箔を貼った天井を支え、床には細やかなモザイクタイルを貼り付けている。装飾していないところが見当たらないほど装飾が充満している。しかも、既製品はほとんど使われていないと思われる。
堀氏はエジプトにある「カルナック神殿」のような空間をイメージしたといい、その具現化のために柱だけで1本1億円もの巨費を投じている。柱の表面にはマーブル状の模様があるため、大理石製と思われるが、左官職人の久住章氏がシュトックマルモという高度な技法を駆使して、大理石風に見せたものだ。
天井の金箔は22.5金で、陽が当たったときにもっとも美しく輝くよう計算された純度といい、ロベール・ゴアール工房の職人がすべて手作業で貼ったものである。床のモザイクタイルに至っては、1人の職人が地道にセットしていったという。気の遠くなるような話だが、堀氏の熱意に押された職人たちは全力で思いに応えたといえる。
ロビーで異色の存在が、壁面にははめこまれた鹿と豹のモザイク壁画だ。2世紀頃のシリアで制作されたものを、堀氏が直々に譲ってもらったという。また、宴会場には、イタリア人画家のジョルジオ・チェリベルティがこの地を訪れて制作した「愛と自由と平和」をテーマにした天井画がある。
ホテル川久は、古今東西、新旧の文化が融合した美の殿堂である。見どころが多すぎて書ききれないほどなので、実際に訪れ、できれば宿泊して見学することをおすすめしたい。
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